＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞｜リアクション

＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞

　ぶどう農園は「ぶどう狩り時間無制限」の噂を聞きつけてやって来たぶどう狩り客で賑わっている。
「ぶどう狩りの人はこちらデェッス☆」
　接客モードに火がついているのは志波武道だ。
「猫がたたずんでいるみたいな形でしょー、これが特徴、スンゴク甘いんだぜぃ☆」
「落ちているものだけじゃなく、成っているものも取っていいからねん」
　呉井陽太も接客に参加している。
　ネコーゼ拾いに夢中だった羽生碧南が、成ったぶどうをジーッと見上げる女の子を見つける。
「ん、狩ってみる？」
　うんとしっかりうなずくのを見て、2人笑顔になる。
「はい」
　女の子を抱きかかえてあげる碧南。
「そーっと取ってね……うん、そうそう！　よくできたね。それ、お母さんとお父さんに持っていってあげてね」
　飛ぶように駆けていく女の子に手を振る。いつの間にか農園がたくさんの笑顔に包まれていた。
「あの」
　今度は大人の女性に声をかけられる。碧南より10センチほど背は低いが、プロポーションが完璧なほどに整っていて、何より女性の自分でも釘付けになってしまう豊満なバストを持っている。
（うわ、すごいスタイルいいなあ）
　と思いながら碧南、「はい？」と笑顔で接客する。
「本当に本当に、いくら食べてもいいんですか」
「ええそうですよ、お一つどうぞ！」
　碧南からネコーゼの一粒を受け取ったスタイル抜群の女性の名は、木天蓼市内のガールズバーで働く真境名アリサ。
「……うん、すごい甘い」
　その芳醇な甘味にしばし驚く。
「これが、食べ放題！」
　碧南もまたつまみ食い。
「お菓子とかにしても美味しそう」
「入り口のカフェで、ケーキやタルトを作る人たちもいますよ」
「へえ、楽しそう！　ちょっと後で覗いてみるわ」
　まずはそのままの味を楽しむけど。そう言って落ちているぶどうを拾っては食べていく。
（ねこったーのつぶやき、まさかまさか本当だったなんて）
　ネコーゼの甘さを堪能しながらにんまりするアリサ。
（食費を浮かす絶好のチャンス！）
　前かがみでネコーゼを拾い集めながら小さくガッツポーズ。実は彼女、先週競馬で大負けして財布の中がすっからかんだったのである。
（持ち帰りもできそうだし……これで3日は凌げるわね）
　彼女は寝子島でたくましく生きている。
（さて、仕事仕事）
　碧南もぶどう拾いに再び勤しむ。
（来月の予約特典付き乙女ゲーCD新作のために……頑張れ私！）
　意気込みは他の誰よりも高い。

　ぶどう狩り客によって一気に消費されていくネコーゼだったが、開始30分早々にその消費スピードが鈍ってくる。どんなに甘くて美味しいぶどうであれど、胃袋には限界がある。新しく来るお客の数も減り始めていた。
「こりゃ宣伝部隊が必要だね」
　武道が伊達眼鏡の真ん中を中指でクイッと持ち上げる。何せ今回の急なぶどう狩り食べ放題、宣伝といったらねこったーくらいでしかしていない。もっともっとたくさんの人たちに知ってもらう必要がある。というかそれをしないと500キロもさばけないだろう。
「ぶどう持って街まで売りに行ったらどうかねぃ。ぶどう狩りもやってますよーって言いながら」
「それだ」
　陽太の提案にズビッと人差し指を突き出す。
「善は急げだ、できるだけぶどう抱えて行って営業しまくるぞ」
「ぶどう売りのブドーくん、だねい」
「陽太くんも協力頼むよ」
「がんばるねぃ」
　さっそく準備にとりかかる2人の元へ梅戸有留が寄ってくる。
「あの、僕も一緒にいいかな？」
「もっちろん、仲間は多い方が心強いね☆」
　こうして武道と陽太と有留の3人、両手一杯にネコーゼを抱えて、街へと下って行くのだった。