＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞｜リアクション

＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞

　山猫農園は予定よりも30分ほど早く開園となった。ねこったーで噂を聞きつけたぶどう狩り客が、農園前に多数詰めかけていたからだ。そのころにはもう太陽は高いところにまで達し、気温は土や木を温め、今日の温暖な一日を約束している。
　開門した農園へとなだれ込む層の中に、流れに身を任せて参加していた浅山小淋がいた。
（500キロは相当な量……ですね）
　門をくぐってすぐのところに「まずは試食をどうぞ」と袋いっぱいのネコーゼ。案内に従って一口味見してみる。
　これは……。
　周囲のぶどう狩り客と同様、言葉も一緒に吞み込んでしまう。元々、声を発することはできないのだが。
（儲けにならないのが勿体ないくらいですね……）
　スケッチブックを引き出すと、呼び込みをしている園長の元へ走る。
『私にもお手伝いできることはありませんか』
　小淋の、製菓部の端くれとしての本能がうずく。

　同じく門をくぐって入ってきたのは、小学生の夕鈴翼。両親は留守がちなので、他の家族連れとは違い一人で遊びに来た。
　興味津々といった面持ちで一粒、ネコーゼをつまみ上げる。慎重に皮をむくと、中からみずみずしい果実が顔をのぞかせた。汁をこぼさないようにしながら上へかざして、太陽の光に透かしてみる。エメラルドのような輝きを放ち翼をしばし釘付けにした。
「いた、だき、ますっ」
　少し背伸びした姿勢で、チュッと口づけするようにネコーゼを口へ運ぶ。舌の上で念入りに転がして甘さを堪能する。頬がとろけそうなくらい気分が舞い上がる。
「まだまだたくさんあるからねーいっぱい食べてね」
　翼がじっくり味わう様を見届けてから、アルバイト参加の桜庭円が声をかけた。
「全部でどのくらいあるんです？」
「500キロ……って見積もってたかな」
「ごひゃく……」
　翼には想像しきれない大きな量だ。
「それを1日でっていうんだから、縛りが厳し過ぎるよね」
　悩ましげな円。
「ボクもできるだけ協力します！」
　そう言って一気に翼がネコーゼを頬張る。
「でも1キロ足らずでお腹いっぱいになりそうだよねー」
　円も一粒口に含み考える。ぶどうを日持ちさせる良いアイデアはないものだろうか。
「うーん……ワイン、はどうなんだろう」
　ふと思い浮かび、小淋に案内をしていた園長へ質問を投げかける。
「育男さーん、ワインって作れないかな」
　甘いブドウをつまみながら渋い顔をする園長育男。
「作れないことはないでしょうが、きちんと許可を得ないと違反になってしまうので」
「そっか〜」
「契約してくれるワイナリーがあれば何とかなるかもしれませんが」
「あ、あるある！」
　ちょうどぶどうの詰まった袋を運んできていた、さすらいの自由人でありベテランのアルバイターでもある暗道忍が声を上げる。
「知り合いでワイナリーやってるところがあって、新商品を作りたがっているんですよ。提携してみません？」
　園長の返事を待たずに携帯電話を取り出す、マネジメント力豊かな忍。
「寝子島ブランドのワインかー新しい名物になったりして」
「寝子島のネコーゼだから、猫のラベルだね」
　ボクっ娘な円と翼が勝手に話を進めていく。
「ボクのにゃーくんがモデルになるのもいいなー」
「ワインって寝かせば寝かすほど美味しいんですよね。10年寝かせてボクがオトナになったら、今日のことを思い出しつつ飲む、なんてのもオツじゃないでしょうか」
「君、小学生なのによくオツなんて言葉知っているね……」
　園長の与り知らぬところで、“様々”な計画が着々と進んでいくのだった。

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