＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞｜リアクション

＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞

　午前7時の山猫農園は秋晴れの下、すでに数人の緊急アルバイターが集まっていた。農園のピンチを聞いて駆けつけた者もいれば、個人的な理由によって応募した者もいる。羽生碧南は、どちらかといえば後者にあたる。
（来月までにお金貯めないとー）
　サイケなレインボーTシャツは最近のお気に入り。色彩豊かな服装は案外農園にマッチしていた。今月は乙女ゲーのドラマCDをやたら買い漁ったため余裕の金欠、来月の新作はおろか今月のおやつ代もままならない。迷わずアルバイトに応募し、今日一日をぶどうさばきに費やす覚悟だった。
（天気もいいし頑張るぞ）
　気持ちのいい秋空を仰ぐ。
　爛漫な碧南に比してやや暗めな印象を与えるのが塔ヶ崎璃亜。彼女も生活費を稼ぐため、そしてぶどうつまみ食い歓迎と聞いて今回のアルバイトに参加した。気合のほどは他のアルバイターと差はないのだが、どうも彼女の薄幸そうな見た目が、農園の中で際立って、陰って見えている。
「やはり有留さんも参加していましたか」
　高校生アルバイター仲間の梅戸有留を見つけ声をかける。
「塔ヶ崎さん。バイトで会うのは結婚式の代理出席以来かな？」
「ですね。今日もがっつり稼ぎましょうね」
「うん！」
　2人の眼差しの奥に諭吉の姿がちらほら。そんな経済面に訳あり気な2人とは打って変わって、御巫時子は空を舞う鳥たちのさえずりを聞きながらおっとり、今日一日を楽しみにしている。有留からメールで誘いを受けてアルバイトに参加した。
「ぶどうなら……ゼリーやジャムが素材の良さをふんだんに活かせそうです……」
　足元に落ちている一粒を拾い上げてつぶやく。
「いいね！　ゼリーにジャムに、ケーキやタルトも」
　碧南のテンションがみなぎった。
「おっと」
　危うくぶどうを踏みそうになる。
「ふんづけちゃったら台無しだもんね」
「私はジャム作りに挑戦する予定です」
　璃亜が言うと、では「私はゼリーを……」と時子が続く。
「うーん私は……料理正直得意じゃないんだよね」
　だから拾い集めに専念するよ。と、碧南は慎重になりながらネコーゼの木のもとへ。
「僕もぶどう集めを頑張るね」
　と有留。
　それぞれの役が決まったところで、山猫農園園長の古津育男が控えめに言う。
「それでは集まってくださった皆さん、アルバイトの方は順次増えていきますので、まずは手分けして落ちているネコーゼたちの拾い集めをお願いします」
　落ちているぶどう、総勢でおよそ500キロ。山猫農園の長い一日が始まった。

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