＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞｜リアクション

＜急募＞一日でぶどう500キロさばいて！＜つまみ食い歓迎＞

　大天使天吏は農園をぐるり一周し、再び農園入り口へと戻って来た。
（何かやってる……）
　大きな人だかり、中央では何やら大会が行われている様子だ。少し背伸びして人の輪の中央を観察する。
（あら）
　農園の入り口で一緒だった奈倉藍がいた。ぶどうのパウンドケーキにがっついている。小食の天吏には真似できない芸当だ。
（パウンドケーキなら保存も効くし……鳥たちともシェアできるかしら）
　人の足が大会に向いている隙に。お土産屋へと向かう。

「過酷なサバイバル、ついに半分の人がリタイアとなりました」
　八神修が実況する中、大会本戦はいよいよクライマックスを迎えている。残りは7人。
「パウンドケーキの次はタルトです。こちらも焼きたてなので美味しいですよ」
（確かに美味しいけれど）
　7人の精鋭の中に藍はいた。
（そろそろ、お腹が、破裂しそう……！）
　限界が来ていた。
「もう、無理です……ギブアップ！」
　タルトを半分平らげたところで戦線離脱。
「あ、残りは家で食べるんで」
　そう言ってタルト片手にテーブルを離れていく。
（はあ苦しいです……でもすごい幸せです）
　ぶどうに始まりゼリーやジュース、ケーキにタルト。フルコースを味わうことができた。最高の一日だったとホクホクな藍であった。

「おっと奈倉選手の離脱を皮切りに、続々とリタイアが出ています」
　残り3、そして2人となり最後のデッドヒート。両者一歩も譲らずで、これ以上食べさせるのは危険と判断、
「ここはお２人の健康面も考慮し、どちらとも優勝はいかがでしょうか」
　修の提案に、始終を見届けていた観客側からも大きな拍手が沸き起こる。大会は、2人のぶどう王を誕生させて無事に決着、タルトやケーキの景品は半分にしてプレゼントされた。
　大会は、大盛り上がりのまま終わりを迎えた。
「白熱した大会になりましたね」
　常闇月が司会者修を労う。
「ああ、わざわざ大会を見るために来てくれた人もいたみたいだし、売り上げに貢献することはできただろう」
　ぶどうジュースを受け取り喉を潤す。
「農園の赤字は免れたようです」
「ああ、ピンチをチャンスに変えることができたな」
　帰り客を笑顔で見送る園長を見ながら、修と月、ホッとため息をついた。

「おかげさまで500キロのぶどう、ほぼ完売することができました。残ったぶどうや加工品は、皆さんお土産として持って帰ってくださいね。お代はもちろん要りませんので」
　そう言って、少ないですが、と本日のバイト代を全員に手渡していく。
「え、あたしも？」
　客として来ていた真境名アリサにも。
「はい、頑張ってくれましたので」
「あ、ありがとうございます（うは、ラッキー！）」
　カフェにアルバイターが集まり、打ち上げと称してぶどうジュースで乾杯。
「あ、20歳以上の方にはこれもありますよ」
　暗道忍が、ワイナリーから頂いてきたワインを持ってくる。ネコーゼ産ではないが、あと数週間もすればそれも完成することだろう。
「園長、一杯どうですか」
「嬉しいですね、お酒には目がないもので」
「ワインの販売はあたしにお任せを。余ったジュースと一緒に通販で、ネットで広告を打ち出します」
「よろしくお願いします」
　檜扇舞華の抜かりない手腕に、園長も大助かりだ。
（数本は私と、ご主人用にいただいて帰りますが）
　舞華はやはり抜かりがない。
『楽しくて、美味しい一日でした』
　浅山小淋がスケッチブックに書いて園長に見せる。
「ありがとうございます。私も皆さんと過ごせて楽しかったです」
　ほんの数口飲んだだけで頬を赤らめる園長。
「自分で作ったものを食べるって、一番幸せだよな」
　パウンドケーキを自画自賛しながら花厳望春が言い、
「汗をかいた後に、みんなで食べるっていうのがまた最高だね」
　佐藤英二が口をもぐもぐさせながら続く。
「梅戸さん、今回もお疲れさまでした」
　御巫時子も充実した疲れを感じている。
「お疲れさま、御巫さん」
　梅戸有留は答えてあくびを一つ噛み殺す。

　こうして無事、日の沈む前に山猫農園の500キロぶどうはさばくことができた。全員が充実した顔と手みやげを持って、それぞれ帰路につく。

　山猫農園はその後、ワイン・ジュース・ゼリーなど加工品の売れ行きが一気に伸びていくことになり、全国規模で評判となっていくのだが、その影におよそ20人の優秀な1日アルバイターがいたことは、あまり知られていない。

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あとがき

担当マスター：小西秀昭
ファンレターはマスターページから！

　アルバイトお疲れさまでした！　ぶどう狩り客として参加してくださった皆さまもありがとうございました！　山猫農園は無事、大赤字の危機を免れることができましたああああ！

　個人的には「ネコーゼ」という品種名がとても気に入っています。どうも小西です毎度お世話になっております。

　果物狩りのシナリオはずーっと前からやってみたくて、「収穫の秋になったら必ずやるぞー」と決めておりました。無事に公開することができ、またシナリオも円満に終わることができ、マスターながらホッと一安心です。今回は物語の起伏よりも、プレイヤー同士の交流により重きを置いています。新しい出会いや関係が築けていれば幸いです。

　またフルーツ＆スイーツなシナリオはやってみたいですね。おかげさまでワインの作り方やタルトの美味しい焼き方を知ることができました。これからも寝子島共々、小西をよろしくお願いいたしますっ！

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