【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！｜リアクション

【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！

　小柄な幽は走りながら玉を拾っては投げた。どのような方向からも的確にカゴを捉えた。白猫組の人数の少なさを物ともしない活躍に人々の動きが活発になる。すると、幽の足が止まった。
「表情が活き活きとして、とてもいいですよぉ。写真を一枚、よろしいですかぁ？」
「競技中ですよ。仕方ない人ですね」
　優菜は振り被った手を下ろし、どうぞ、と正面を向いた。
「玉入れに集中した姿が撮りたいのですよぉ」
「注文の多い人ですね」
　カゴを見据えて優菜は玉を投げ始めた。幽はカメラを手に様々な角度でシャッターを切る。いいですよぉ、と褒め言葉を合間に入れた。
　近くでは丸美が頬を赤くして玉を投げている。腕の振りの勢いでよろけながらも奮闘していた。幽は漏れなくカメラに収めていった。
「ご協力、ありがとですよぉ」
　幽は二人に向かって微笑み、足元にあった玉を拾って宙に投げた。それは緩やかな弧を描いた末にカゴに吸い込まれた。見るまでもないという態度で走り出し、目にした護に声を掛ける。
「君も白猫組なのですかぁ」
「あ、春賀さん。もしかして新聞部の活動もしているのですか？」
　護は幽の手にしたカメラを見て言った。
「そうですよぉ。ボクだけでは大変なので君にも協力して欲しいのですよぉ」
「え、玉入れの最中にですか？」
「よろしくですよぉ」
　気紛れな風となって幽は疾走に移る。半ば呆けたように見送った護は、ええー、と声を上げた。
「玉入れだけでも大変なのに、カメラまで、僕はどうしたらいいんですか～」
　うろたえる声は優菜の耳にも届いたらしい。
「やれることをやるだけですっ！」
　気合を玉に込めて投げる。カゴの手前で失速して地面に落ちた。次の玉も同じような軌道を辿った。
「……意外と高いですね」
「そうだよねー」
　丸美が玉を拾いながら近づいてきた。優菜の横にきて掛け声と共に投げた。力ない様子で飛んだ玉は見事に武道の背中に当たった。
「え、なんだ？」
　背中に手を当てた武道が振り返る。丸美が謝ると親指を立てて、いいよー、と笑顔を見せた。
「もっと力を込めないとね！」
　気を取り直した二投目。やぁ、と力強い声で投げる。ふわりと飛んだ玉は的確に武道の頭頂を捉えた。
「俺はカゴじゃナイヨー」
「本当にごめんね！　背が高くてどうしても当たってしまって――」
　頭を摩る武道に丸美は頭を下げて、そうよ、と大きな声を出した。
「実行委員長さん、私を肩車して！」
「俺が後輩ちゃんを、ナンデかな？」
「高いところから投げたら私でもカゴに届くかも！　お願い、一つでもいいから入れたいの！」
　切実な願いに武道は笑顔で胸を叩いて、少し咳き込んだ。
「フトモモに顔を挟まれる役は俺に任せろ！」
「ありがとー」
　丸美は飛び跳ねて喜んだ。
　優菜は玉を拾って強く握り、全力で投げた。カゴの縁に当たって、ゆっくりと中に転げ落ちた。
「……ウサギは可愛いですが、タヌキも悪くないですね」
　青い瞳を細めて呟いた。