【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！｜リアクション

【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！

　玉入れの参加者が続々とグラウンドに集まってきた。
　一番乗りは奈良橋博美であった。黒猫組の陣地でアキレス腱を適度に伸ばし、手首を回す。一切の手を抜かない姿勢を見せ付ける。
　目にした勘助が近づいて声を掛けた。
「…同じ、白猫組…負けないように、がんばろう…」
「オレは全力でやるつもりだぜ。純粋に玉入れを楽しみたい人もいるだろうから、勝利に貢献しろとは言わない。頑張った結果、勝てればいいかな」
「うん、そうだね…俺も賛成、だよ…」
「勘助、俺を仲間外れにするんじゃねぇよ」
　蓮太郎は話に割って入った。寝子高のロゴが入った団扇で自身を扇ぐ。博美の姿に目をやると一気に表情を緩めた。
「それにしても君、凛々しい少年だな。世界一のイケメンの俺に抱かせてくれないか」
「ちょ、ちょっと、親父…こんな人が、いるところで、やめてよ…」
　勘助は博美の姿を隠すように立った。その大きな背中から博美が顔だけを出す。
「男っぽく見られるのは嬉しいけど、残念なことにオレは女だぜ。名前は博美だ」
「全然、残念じゃねぇな。いいじゃねぇか」
「よくないよ…！」
　グヘヘ、と笑う蓮太郎を前にして勘助は身構えた。
「な、なーんてな。冗談だよ、本気にするんじゃねぇよ」
「…え、急に、どうしたの…？」
　いいって、と蓮太郎は口にして背を向けた。
「なんだい、頭の酸素が足りたのかい。人工呼吸してやろうと思ったのに」
　しゃがれた声に勘助が振り向くと、丸っこい老婆の集団が毒々しい紅い唇を突き出して悔しがっていた。
　一目で勘助の身体が震えた。
「…こ、怖い、ね…接触には、気を付け、ないと…」
「妨害しない方向で動けば心配ないと思うぜ」
　博美は自陣のカゴを見上げて言った。
　その時、観客が一斉に沸いた。子供の声が多くを占めている。
　頭と腕を振りながら歩いてきたのは月詠が入った白猫の着ぐるみであった。団扇を持った手を上げて声援に応えて見せる。
　黒猫組にいた真央まで興奮した声を上げた。
「ふおぉぉ、極彩色のおネコ様が颯爽と登場したのだ！　とてもカッコイイのだ、ギュッとしたくて堪らないのだ～」
「真央、やめとけ」
　側にいた市子が親指を立てて後ろの方を指差した。老婆の集団が白粉を塗りたくった顔で見ていた。紅い唇を血色の悪い舌で舐めて、ヒッヒッヒ、と引き攣るような笑い声を上げる。
「ヒィィィなのだ！　見てはいけないものを見てしまった気分なのだ～」
「まー、用心しろってことでー」
　市子は大きな欠伸をして、だりー、と言いながら空を眺めた。
　カゴを中心に玉がばら撒かれていた。修は二つを手に取った。表面に黒い猫の顔を模した物が貼られていた。
「これはシールなのか」
「あたしが付けた猫さんシールなの。これを見て、みんなが楽しい気分になってくれると嬉しいの！」
「まさか、全部の玉に貼ったのか？」
「そうなの。白猫組には白い猫さんを付けてきたの」
　効果の程はわからない。ただ、明里の熱意は本物であった。お疲れ様、と修は心からの声を送った。
　カナリアが上空を飛んでいた。ろっこんで変身したラッセルである。徐々に高度を落としていく。小さい身体が幸いして観客から注目されることはなかった。
　逸早く修が顔を上げた。周囲の人を避けるようにして歩き出す。胸元の手が招くように動いていた。
　羽を畳んだカナリアが急降下を試みる。地面に激突する寸前で羽ばたいて音もなく着地した。素早く修が跨いで持っていた玉を落とす。
　カナリアは二つの玉の上に乗った。両脚の爪を食い込ませて羽を広げると、徐々に動きを速くした。
　玉入れの開始を告げるホイッスルが鳴り響く。カナリアは一気に空へと飛び立った。僅かに遅れて人々の歓声が沸き起こり、秋の澄んだ空を駆け巡った。