「――させないよぉぉー！」

　遠くから雄叫びを上げながら、【インフェルノガッツ】の雨寺 凛と騎馬が【一騎当千】の背後に体当たりを敢行！
「これでも喰らわんかい、オラァ！」
　前馬の難波 辰の体ごと騎馬同士が衝突！
「ぐッ！？　だが踏ん張る！！」
　背中を強打した御剣だが、騎手の屋敷野を支えるべく足腰へパワーを集中させた。
「いかん、組み付かれる前に距離を置くぞ」
　シグレ・ナイトウォーカーの判断で、包囲網を離れて【インフェルノガッツ】と向き合う【一騎当千】は、更に白猫組のもう１騎が接近していることに気が付いた。
「さぁ、私を楽しませろ！」
　伊勢 エリカ率いる【エリカ】チームだ！
　今まで黒猫組の騎馬をさんざん追い回したが、あまりの迫力に戦闘を避けられ続けていたのだ。
　これには伊勢のフラストレーションが募る一方。
　ようやくこれで初交戦に至ることができた。
「今のうちに早く逃げてください！」
　目をカッと見開いた状態を継続している倉前 七瀬が【川中島】の面々へ告げる。
　しかし、この言葉に小刀祢の眉間にシワが寄った。
「おっと、ここで背を向けるのは武士の名折れ～行くのですよ～」
　不退転で黒猫組３騎に立ち向かっていく。
　白猫組と黒猫組、互いの３騎が一気にぶつかり合う！
　
　【一騎当千】【虹色戦隊】【川中島】 vs 【インフェルノガッツ】【エリカ】【ボビナム】

　超攻撃型の【一騎当千】は、同じ超攻撃型の 【インフェルノガッツ】と何度も体当たりの応酬を仕掛け合っていた。
　両者とも狙うは“騎手の落馬”！
　自ずと馬同士の駆け引きに発展していく。
「いくらバイトでお世話になってるシグレ先輩のチームでも負けないっす！」
　六月一日宮 檸檬が気合の声を張り上げると、シグレのいる右サイドへ【インフェルノガッツ】が衝突！
　すぐさま離脱するヒット＆アウェイ作戦だ。
「御剣、大丈夫かっ！？」
　シグレは衝撃を分散するべく、足を開いて耐え抜く。
（防御は御剣を信頼しているとはいえ、あまり負荷を掛けすぎると消耗が激しいな、これは……！）
　シグレの思案を察したのか、御剣は減らず口めいた声を上げる。
「防御は俺の役目です。こんなの、毎朝の鍛錬の方がよっぽども堪えますよ」
「まだまだ行けそうだな、御剣？　……もう１回来るぞ、備えろ！」
　今度は左側の志波 拓郎に向かって、馬の側面から激突！
「負け、る……ものか……！」
　飽くなき勝利への執念を燃やす拓郎、彼は直撃の瞬間、体を半歩横にずらして衝撃を後ろへ流すように試みる。
　拓郎が受けるはずだった負荷は御剣へ一気に掛かり、思わず彼の顔が歪む。
　だが、衝撃が後ろ受け流されたことにより、【一騎当千】は吹き飛ばずにその場に留まる事に成功。
　これにより【インフェルノガッツ】は、一瞬だけ相手の騎馬に半ば減り込む形に。
「この……瞬間、を……待ってた……ッ！！」
　ここぞとばかりに拓郎は、相手の後馬の呉井 陽太の足を払う！
　呉井の足が止まったことでバランスが崩れ始める……。
「雨寺はぜってぇー死守！　運動じゃ誰にも負けねーぞ！」
　七葵 冬馬が必死にバランスを取るべく両足に力を入れた。
「女子をおっことしてもうたら馬の名折れや！　雨寺を死守するで！」
　先頭の難波が方向転換、離脱を試みる。
「そうはさせないわよ？」
　尾鎌 蛇那伊は難波の太ももを素早く挟んだ。
「なんやてっ？　逆カニバサミ！？」
　カニバサミは関西出身の常識なのかもしれない。
「つ・か・ま・え・た・わ！　ちょっと距離があるわね……。仕方がないわ、届け、あたしのジュデ～ム♪」
　尾鎌は顔を難波の耳元まで寄せると、唇をすぼめて圧縮空気を一気に放った。
「フジコブレスならぬ、オカマブレス♪　ポォゥッ！」
　尾鎌はいつの間にか富士山 権蔵……フジコ先生の必殺技『フジコブレス』を自己流に体得していたのだ。
「ぬおぉぉ……！？」
　未曾有の感触が難波の耳元を襲う！
　難波の足が完全に止まった。
「このぉ！　離しやがれっ！」
　六月一日宮が必死に尾鎌の足を解こうとカニバサミの隙間に自分の足をねじ込む。
　その間、馬の上でも戦闘が勃発。
「フハハハ、圧倒的実力の前にひれ伏すがいーです！」
　一気呵成に雨寺 凛に襲い掛かる屋敷野 梢！
「取っ組み合い上等だよ！　ネコフェスの炎天下でずっとギター持ってライブこなす程度にはパワーもスタミナもあるんだからね！　そう簡単には負けないよ！」
　屋敷野のラッシュを、上体を逸らしたり腕で打ち払ったりして凌ぐ雨寺。
「雨寺さん、文化部出身なのにやりますねー！　私の昆虫採集で得た瞬発力についてくるとは意外ですよー！」
「軽音楽部は体力勝負だものっ！　ヘドバンッ、モッシュッ、お手の物だよ！　梢ちゃんこそ、生物部なのにタフだよね！　それ！」
　屋敷野は雨寺の反撃を体を傾けて回避した。
「生物部は野山でのフィールドワークが基本ですからねー！　基礎体力はどこの文化部よりもあると自負してますよー、隙ありっ！」
　だが、屋敷野の腕は雨寺の髪をさらうだけでハチマキに届かない。
（参りましたねー、尾鎌君の作戦はグッジョブですがー、機動力を信条とする私たちとはアンチシナジーなのですよねー）
　これでは屋敷野の“奥の手”を発動できないのだ。
「よっしゃ！　足が解けたぜ！　難波、離脱するぞ！」
「た、助かった～！　とりあえず逃げるで！」
　六月一日宮が叫べば、難波も距離を取るべく急速進軍！
「そうはさせない。追撃だ！」
　シグレが【インフェルノガッツ】の背後を狙う。
　再び衝突、騎手がよろめく！
（チャンスでーす！　そのまま後ろに引きずり込んで落馬させちゃいまーす！）
　屋敷野が腕を伸ばそうとしたその時である。
　後馬の呉井が振り返ると、屋敷野を見上げる。
　そして普段は糸目と言われるほどの細い目を、これでもかと見開いた。
「危ないじゃないか、後ろから来るなんて、ねぇ……？」
　呉井の声は、まるで獄卒の鬼のような威圧感に満ちていた。
　優しそうな先輩面から一変、血に飢えた狼のような危険な表情は、屋敷野を一瞬でも怯ませるのに充分だ。
「え、ちょ、り、立派な作戦ですよー！？　勝てばいいのです！」
「屋敷野、惑わされるな、手が止まってるぞ！」
　御剣の指摘通り、相手はその一瞬で安全圏まで脱出してしまった。
「むー、逃げられましたかー。でもあれには驚きましたねー。人は見かけによりませーん……！」
「屋敷野、ホッとしている場合じゃないぞ、別の騎馬が来る！」
　シグレの言葉通り、今度は【ボビナム】が【一騎当千】に襲い掛かる。
「シダ　たいあたり　いくぞ　もこもこ　みんな　ついてこい　モッ、ハイ、バーン！」
「シダさん、衝突したら左へ旋回して！　回り込むよ！」
「ヴァン！　まかせろ」
　緑野の助言に従い、先頭のシダ 美穂戸はリズムを取りながらドリフトしながらの体当たりを敢行。
　急旋回して回り込む。
「おっと、その攻撃は……ボクの灰色の脳細胞が予見していたよ？」
　すれ違いざま、ヒョイ、とシグレの足払いを軽々と飛び越える新井 すばる。
「私も頑張らなきゃ、負けないよ！」
　惺靇 なつみも息を切らしながら懸命に足を動かす。
「でも相手もなかなかやるね。決め手に欠けるよ……！」
　伊藤 佳奈の言う通り、なかなか決着が付かないようだ。