【戦況、動く】

　白猫組のチーム【ボビナム】は、黒猫組の【川中島】と交戦に入った。
「佳奈ちゃん、上から指示を！　みんな、よく聞いて声を出していこう！」
　指揮官の新井 すばるが騎手の伊藤 佳奈に行動の指針を問う。
「右へ旋回！　回避だよ！」
「ヴァン！　まかせろ！」
　先頭のシダ 美穂戸が右側へ方向転換。
　左馬の惺靇 なつみの体に、突っ込んできた【川中島】の先頭馬の猫又 翔琉が体ごと激突！
　だが、猫又から受けた衝撃を惺靇は持ち前のぽよぽよ体型が吸収・分散してノーダメージだった。
　むしろ猫又が跳ね返されるほどの弾力を誇る惺靇であった。
「流石だね、何もしなくてもなつみちゃんは無敵だ」
　新井が思わずウィンクした。
「ごめんね？　痛くなかったかな？」
　ぶつかった敵チームを気遣う惺靇に、チャラ男の猫又は大感激！
「なんて優しいエンジェルなんだ♪」
「おーい、翔琉くーん！？　まさかと思うけど、さっき言ってた作戦って……」
　騎手の桃原 空音の嫌な予感はすぐに的中した。
「決まってるだろ！」
　猫又は当然の如く言ってのけた。
「ジャーン！　ずばり『女の子褒め殺し作戦！』だ★」
「へぇ……」
　桃原の目が死んだサンマのようにくすんでいく。
「ほら、俺ってモテる（注：自己認識）じゃん？　女の子って優しい言葉に弱いじゃん？　つ・ま・り！　俺が女の子を褒めまくって惚れさせている隙に、みんなが騎馬を攻撃する完璧な作戦なんだぜ！」
　桃原はがっかりしていた。
「本当かなぁ？　あたしの時はどう考えても、煽っているようにしか見えなかったけど、大丈夫……？」
「桃原さん、騙されちゃダメだよ」
　維剣 姫乃の表情はいつになく真剣だ。
「これはきっと、相手を油断させて全く別方向から攻撃する、あの中国の有名な兵法書『三十六計』に記された６番目の計略、『声東撃西（セイトウゲキサイ）』！」
　どーんっと維剣の顔から集中線が入るような気迫が放たれた。
「見た目で人を判断しちゃダメだよ、桃原さん！　猫又君、実はすごい軍師の才能があるのかも？」
「えっ？　そうなの？　100％ただのチャラ男だと思うよ？　断言してもいいよ？」
　珍しく桃原がツッコミに回らざるを得ない状況が発生した。
「そうと分かったら私も計略を駆使しなきゃ。ひと当たりして身体が慣れてきたから、迷わず後退だよ。疾きこと風の如くね！」
　維剣の指示で一旦後退を余儀なくされる猫又。
「ヘイ、子猫ちゃ～ん？　せっかく見付けたマイエンジェ～ルとの距離を裂かないでほしいんだぜ★」
「ごめんね、猫又君！　でも、同じところに留まるのは危険だよ。静かにさりげなく移動するの。徐かなること林の如しだっ！」
　どうやら維剣、騎馬戦のイメトレに古今東西の兵法書を読み漁ってきたらしい。
　……それが全て、現在空回りしていると気が付いていないのはご愛嬌である！
「騎馬戦……、これは絶景……！　血沸き肉躍るお祭りなのですよ～」
　小刀祢 切奈はやはり周囲とは違う感覚を持っているようだ。
　だが、どこか彼女の元気がない。
　理由は簡単、刃物フェチの小刀祢は現在、ボディチェックで身に付けていた刃物類を全部没収されてしまったのだ。
　彼女は深い悲しみの中にいた。
「あー……、刃物は使っちゃ駄目なのですよね～。……刃物がないと私の力の７割が発揮できないですよ～」
「切奈ちゃん、物騒なんだよ！？　どんだけ刃物好きなの！？」
　流石にボケ属性の桃原も、天然ボケには敵わなかった。
　そして彼女は決意した。
「う～ん、なんか不安だなぁ～？　あたしも桃色視線で褒め殺してみようっと！」
　こうして【川中島】にツッコミ役がいなくなった。

　白猫組の【川中島】を援護するため、【虹色戦隊】と【一騎当千】が到着。
　黒猫組の【ボビナム】を包囲する。
「囲まれちゃったよ！　どうしよう！？」
　緑野 毬藻子が慌てる！
「ホンサオダウ（問題ない）　シダたち　無敵！」
　シダが仲間に注意を促す。
「５人で　１体思え　進むとき　退く時　ばらばらはコン　だめ。一連の　動作　流れるように　芯とおったかんじ。走る　止まる　よける　全体でだ。練習したとおりだ　わかるか？　わかれ　わかろうとしろ」
「そうだよ、練習通りにすれば、こんなピンチ、ちくわの穴のように通り抜けてやろう！」
　新井は必死に鼓舞して士気を上げようとしていた。
「でも、これはちょっとピンチだよ～！？」
　伊藤は間合いを詰めてくる３騎に狼狽している。
「ごめんね！　これも勝負だもの！　……こっちは魂（タマ）ァかけてんだ！　死ぬ気で来い！」
　６歳から習っている空手の構えを見せながら、遂に女子力をかなぐり捨てた【虹色戦隊】の霧切 翠子。

　ミドリコの　すてみ！（せいしん）
　
　ホモクレパワーが　グーンとあがった！
　こうげきが　グーンとあがった！
　ことばづかいが　わるくなった！
　
　じょしりょくが　いちげきひっさつ！

「これは予想以上のパワーだ。僕の一計が翠子さんに新たなアビリティを覚醒させる一助となったようだ」
　榛名は懐に忍ばせた、霧切の描いた18禁BL同人誌の存在に満足げに頷いた。
　どうやら一連の彼の行動は、すべて作戦通りだったらしい。
（せ、1000点取らなきゃ……取らなきゃ……私の本性が……BL同人誌が……公開処刑に……！）
　チームメイト榛名の謀略が霧切の理性を蝕んでいく！
「霧切君の裂帛の気迫は凄まじいな。僕も見習いたいものだ」
　事情を掴めていないハルトマンは、ただただ気合が入っている霧切に感心していた。
「霧切ちゃん、で、次、どないすればええん？」
　前馬の服部 剛が指示を仰ぐと、霧切は簡潔に答えた。
「決まってるだろッ、ブ　ッ　ツ　ブ　セ　！」
「わー、めっちゃ物騒ー☆　シャバダ・ドゥ！」
　頭頂部の毛髪を霧切にむしられる服部がセクシーに白目を剥いてしまう。
「色々とカオスですがー、観念して下さいねー？」
　屋敷野 梢が騎馬を指示して間合いを計る。
　徐々に狭められる包囲網。
「もうこうなったら玉砕覚悟……！」
　破れかぶれに伊藤がなったその時だった。