出現！　寝子島の黒い青魚（矛盾）｜リアクション

出現！　寝子島の黒い青魚（矛盾）

【これからサンマの話をしよう】

「うん。これでよし、と」
　桜庭円は街灯の下に「これでもか！」というぐらいにわざとらしく配置した七輪を見下ろして満足げに頷いた。
「サンマさんの習性上、七輪があれば蹴りに行って転ぶはず。もし、サンマさんが暴れ出したらここに誘き出せば転ばせて隙がつくれると思うよ」
　円はいざというときのために持ってきたトンファーの柄をぐっと握りしめ、目的を同じくして集まった仲間達を見まわして言った。
　夜の帳が降りて、一部のエリア（歓楽街等）を除いてすっかり人の気配のなくなったシーサイドタウンには、打倒（？）サンマさんに燃える大勢の『もれいび』達が集まっていた。
「ふふ、殺る気漲ってきたのだ。ついにこの武器の封印を解くべき日が来てしまったのだ♪」
　後木真央は神聖武器と称するお手製の釘バットを握り、ぶんとフルスイングで素振りをしながら嬉々として答えた。
「ただでさえ可愛くないサンマさんが、さらに可愛くなくなってました。精神衛生上よろしくないです。釘バットで天誅上等です」
　久良木優菜も物騒な獲物を握る二人の言葉にこくこくと頷いて見せる。
　サンマさんを説得（物理）するという一点で、三人の少女の意見は確かな一致を見せているように思えた。
　が、しかし。
「え？　サンマさんはカッコいいよね？」
　と、真顔で突っ込む円に、
「え？」
　と、優菜は真顔で訊き返し、その瞬間、二人の間に一触即発の空気が流れるかと思われた。
　だが。
「とにかく、だ」
　そこで御剣刀が少々強引に二人の間に割って入り、
「まず最初にいったい何があったのかサンマさんに話を聞いてみよう」
　と、話を元に戻した。
「野々も言っていたとおり、あれは俺達の知っているサンマさんじゃない。寝子島が良いところだって色々な人々に知ってもらうためにも、何としてもサンマさんを元に戻さないと」
「ですねー。だいたい、いきなり腹黒キャラとか、私とキャラ被っちゃうじゃないですかー」
　ぷんすかと頬を膨らませながら同意したのは屋敷野梢。
「黒いのは背中だけにして欲しいですよねー」
　と、間延びした口調で言った彼女に皆が苦笑し、場の空気がやんわりと和む。
「それで、具体的にはどう説得するの？」
　独特な口調でそう切り出したのは海神湊面だ。
「うちは言葉をオブラートに包んで説得、とか苦手だし、そっちはみんなに任せていいかな？」
　平和な天体観測の邪魔をされたくないから、という理由でやってきた湊面のマイペースな喋りは彼女の言葉に妙な説得力を与えていた。
「別に難しいことを考える必要はないさ」
　電信柱に屈みこんで何かを結んでいた八神修は立ち上がると落ち着いた口調で湊面に向き直って言った。
「それぞれが正直な気持ちをサンマさんにぶつければいい」
「そのとおりじゃん！　真っ直ぐな思いをぶつければ、きっとサンマさんもわかってくれるよ！　あたし、そのために一曲作ってきたじゃん！」
　瀬田レオナは勢い込んだ口調でそう断言すると、その場でオリジナルの曲「サンマさん」を披露し始める。
　と、そのときだった。
「あ、ああっ！　た、大変です、みなさんっ！　ついに若いお姉さんが黒いサンマさんの毒牙にっ……！」
　優菜が慌てた様子で通りを指差した。
　そこにいた誰もがハッとして、彼女の指差した先を見やる。
　そこではいままさに一人の大学生風の女性に黒いサンマが声をかけようとしているところだった。

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