秋の散策～九夜山周辺～｜リアクション

秋の散策～九夜山周辺～

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「――ふむ」
「どうしたの？」
　ロベルト・エメリヤノフの声に、浮舟久雨は首を振った。
「いえ。先ほど、ろっこんを使ってるらしき人がいたので」
　ロープウェー乗り場の手前の、高架。眼下の道路を車が通り、駐車場へと入っていった。ロベルトが視線でその動きを追いながら、呟く。
「ろっこん持ちって結局、どれくらいいるんだろう？」
「これだけ多種多様だと、皆目……そういえば」
　久雨が興味深げにロベルトを見る。
「ロベルト先輩のろっこんには、どんな作用が？」
「僕？　僕のろっこんは、相手を少年の姿に出来る」
「少年に？」
「うん。よければ、浮舟君を変えてあげようか？」
「……ッ」
　予想外の提案に、久雨が目を見開く。少し迷った素振りの後、その口が開いた。
「こ、子供の姿を羨ましいと思ったことは、ある！」
「つまり……？」
「了解した。少年にしてくれ」
「よし、じゃあ暫く目を閉じていてくれ」
　言われた通り久雨が目を閉じる。集中しながらも、ロベルトは笑みを隠せなかった。
（僕のろっこんを使っていいなんて……嬉しい！）
　なんという尊い存在か。わくわくしながら、ロベルトはろっこんを発動する。「いいよ」と言いながら、手鏡を取り出す。
　渡す相手は、青い髪の少年だった。
「わ……」
　鏡を見て、少年と化した久雨が目を見開く。
「これが、私……？」
　背が縮んでいた。のみならず、完全に性別が変わり、少年になっていた。
「すごい、すごいぞせんぱい！」
　別人になったようだ。
「ふははすごかろうすごかろう！」
　ロベルトが満足そうに笑った。
　気のせいか、少年になったことで久雨の口調から「固さ」がとれている。「どう？　せんぱいどうっ！？」と、その場で回り聞いてくる『彼』に、ロベルトは足元がふらつくのを感じた。
　やばい。
　このショタ、かわいい。
　かわいい……！
「せんぱい、大丈夫？」
「大丈夫。能力の反動（興奮のしすぎ）だから……」
　それより、と久雨の手を取るロベルト。
「せっかくだから、その姿で遊ぼう！　山も近いし。そう、ハイキングだ！」
「今から、あそびに……！？」
　比率的に大きくなった青の瞳が、輝きを放つ。
「いくー！」
　久雨少年はロベルトの手を引き、我先と走りだす。
「りょうかいだ！　さあ、しゅっぱーつ！」
「……ぐはっ！？」
　元気良いその声が、しかしロベルトの胸を再び貫いた。
　しゅっぱーつ！　というショタ。
（クールな青年が、実は少年時代にはこんな風に素直で、無邪気で……！）
　いい。
　実に、いい！
　妄想が絶えない。
「どーしたせんぱい？　はやくいこう！」
　――ありがとう、浮舟。妄想の種が芽吹いた。
　手を引っ張られながら、ロベルトが笑った。

　午後一時。
　太陽が天頂を過ぎ、気温がもっとも高くなろうとする頃、朝から続いた清掃活動は終わりを迎えた。
　猯利は黙々と作業を終え、再び山頂に来た博美に袋を渡すと、ロープウェー『展望台前』へと足を向けた。無表情で淀んだ目だが、一仕事を終え三夜湖などを堪能した彼は、実は気分が良かったりする。
　三百メートルほど歩いた場所にある駅にはちょうどゴンドラが来ており、待つこともなく『砂掛谷』へと降りていく。
　そして砂掛谷から見える川を見ながら、さらに下るのだ。
「～♪」
　ロープウェーから見える景色をぼうと見ながら、いつしか猯利は小さく鼻唄を歌っていた。
　お待たせしました。まもなく、砂掛谷に到着します――

（刀君、どっか調子でも悪いのかしら？）
　山道から温泉街へ。下りのロープウェーが降りてくるのを横目に、橘千歳は今日ずっと抱えていた疑問を心中に零した。
　様子がどこかおかしい。落ち着きもないし、こちらの動きを気にしている節がある。
　思えば、散策に誘われた時も妙な違和感があったのだ。
（いつもなら、もっと……さらっと声をかけてくる感じなのに）
　今日はなにかが、違う。
　最初は自意識過剰かとさえ思ったが、歩くほどに『妙な感覚』は増大していく。
（足湯に浸かってる時、小山内さんにも聞いてみようかな）
　なんとなく、海も自分と同じ気持ちでいるのではないかと、千歳は感じていた。
　……。
「さすが刀ちゃんなのだ。安定のリア充っぷりなのだ……ゴクリ」
「だからって、隠れる必要はないんじゃないかな？」
　ロープウェー駅の影から三人を見る真央に、修が苦笑した。
「とりあえず予定通り、俺たちも足湯に行こう」
「楽しみなのだ♪」

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秋の散策～九夜山周辺～

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