ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●はずむ心
　主催者のあいさつを聞き届け、音楽が流れ出すのを待って、十文字若菜と浅沼柳司のペアはゆったりと踊り始める。
「先輩。俺、踊ったことないから、教えてくださいね」
「もちろんだよ！」
　ハキハキとした関西弁のイントネーションで伝えると、若菜もそれに応じる。
「まずは私がリードするから、私が引いたのと同じ側の足を出してね」
「わかりました！　えー右足、左足……え？　今のちゃいました？　もっかい右足！？」
「そっちの足じゃないよー！」
　愛嬌たっぷりの柳司。わざとではなく本気で間違えているのがおかしくて、思わず笑ってしまった。
　苦戦しながらも、柳司はダンスのステップに少しずつ慣れていく。
「すんません、でも大体つかめてきました！」
　確かに、先ほどよりミスが減っている。
　飲み込みが早いのかも――若菜は内心でそう思った。
「よしここでアレンジ、先輩くるっとまわって下さい！」
「え、ええっ！？」
　くるっと一回転、のはずが蹴つまずいてよろけ、若菜のステップが乱れてしまった。
　さすがにリードする側が回転するのは無理があったのだろう。
「もう……！」
　あらためてステップを刻もうとして、気づく。
　いつの間にか、柳司がリード役に回っている。
（「ええと、ここで足を引いて、ここをこないな感じで……結構ややこいんやな」）
　ちょっと小難しそうな顔をしながら頑張ってリードを務めようとしてくれているのが、
　若菜にはいっそう嬉しく感じられた。
（「……柳司君」）
　若菜は自分の顔が火照っているのを感じた。胸は高鳴りっぱなしだ。
（「どうしよう、顔がにやけちゃう。こんなにも、一緒に踊るダンスが楽しいなんて」）
　社交慣れしている若菜にとっても、こんなパーティははじめての体験だった。