ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●夜の帳につつまれて
　なんとか無事に乗り切れた――楽しくも緊張したパーティが終わり、
　紅林柳霞はゆっくりとソファに腰を下ろした。
　隣では、踊りも含めてほぼ立ちっぱなしだった紅林千尋が足をぶらぶらさせている。
「大成功だったねー。少し大変なこともあったけど……千尋くんも最後までありがとう」
「いいよー、俺にまで気ー使わなくたって。俺もちょびっとは踊れたし」
　笑顔で接する柳霞だったが、声には若干の疲れがにじんでいる。
　それでも嬉しそうなのは、きっと片時も離れずそばにいてくれたあの人のおかげでもあるのだろう。
（「柳霞姉たち、ほんと仲良いよな」）
　いとこの柳霞にまで「爆発しろ！」なんて事はさすがに言えないが、それでも間近で幸せオーラを放たれ釈然としないものがあるのは事実だろう。
　それにしても、千尋自身が踊ることになろうとは予想していなかった。
　自分から誘ったわけではなく、頼まれては断れない性格でノーと言えなかっただけ、なのだが。
（「個性的な子だったな……」）
　千尋は、今日出会った旅鴉月詠のことを思い出していた。

　星ヶ丘寮の海に面した一室では、その月詠がしたためたデッサンをもとに、キャンバスに絵を描いていた。
「ふむ……ここの配色はどうしようか」
　ひとたび色を重ねはじめては取り返しがつかないだけに、絵の具をとく前にはこうしてあらかじめ配色を決めている。
　描きなれた月詠の腕をもってしても、シャンデリアの明るく透き通った光の再現は悩みどころらしい。
　一通り色の配置を決めた後で、複数のキャンバスを見比べる。
「この一枚が一番いい仕上がりになりそうだね」
　彼女の選んだ最高のアングルの一枚は、やがて完成後にステラ・マリスへと贈呈されることとなる。

　ステラ・マリスのホールもあらかた片付き、千尋が照明のスイッチに手をかけた。
「電気消すよー」
　食品類やゴミなどは業者の人たちと協力して今日中に分別しおえたが、これだけ踊った後にテーブルの配置などを変えるのはなかなかに骨が折れる。
　会場を元に戻すのは明日また、誰かに手伝ってもらった方がよさそうだ。
　玄関先で星を眺めていた柳霞は、頭上から優しい声がふりかかるのを聞いた。
「お疲れさまでした、柳霞さん」
　隣に腰かけた人物が誰なのかは、もう声の響きでわかる。
　彼は店の仕事がある身ながら、ギリギリまで手伝ってくれていたのだ。
「片付けまで手伝わせちゃってごめんね。ラストダンス、すっごく楽しかったよ」
　ゆっくり、名残を惜しむように言葉を紡ぐ。
　これが絵本や童話の中のお姫さまなら、魔法と共に全てが溶け消え、王子様の訪ねてくるのを待つ身となる場面なのだろう。
　――けれど。
　すでに魔法の解けた柳霞の隣には、いまだに彼がいる。

　あの時、風に流すようにつぶやいた告白は、彼の耳に届いてしまったのだろうか。
　おそらくそれは、彼に直接聞かなければわからないだろう。
　けれど、言葉がなくとも気持ちはとうに伝わっていたのかもしれない。
　名残惜しそうに二人、見つめあったあと。
「また、会いに来ますね」
　荒井景貴の白く繊細な手が、柳霞の手をすっぽりと覆った。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：詩帆ミチル
ファンレターはマスターページから！

ごちそうさまでし……もとい、お待たせしました！
「ドレスに願いをかけて」のリアクションをお届けいたします。
何から何まで本気のアクションをいただいて、
これはもう全力で返球するしかないと燃え尽きる覚悟を決め、
私に拾える限りの玉を拾ってはレシーブさせていただきました。

かわいらしかったり、愛くるしかったり、
凛々しくも意外な一面があったり、強い情熱を秘めていたりと、
個性豊かな皆様のキャラクターを描くのは本当に楽しく、時間を忘れるほどでした。
結構な量のアドリブを交えさせていただいたのですが、
シナリオの展開やねじこんだ描写が皆様のご希望に添えていることを、今はただ願うばかりです。

このたびはご参加いただき、ありがとうございました！

詩帆ミチル拝

↑ページトップに戻る