ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●スタッフ集結
　ステラ・マリスで準備をしていた紅林柳霞は、裏口のほうで車が止まる音を聞いた。
　誰だろうと思い外に出てみると、そこには見慣れた一台の車がとまっていた。
「景貴さん……！」
　寝子島で洋菓子店を営む荒井景貴。
　柳霞は景貴をパーティに呼んでいたのだが、開場にはまだ早い。
「ついつい早めに来てしまいました」
　どうしたのだろうと不思議に思う柳霞に、景貴は笑いながら車の後部ドアをあけ、車内に積んできたものを指差した。
　マカロンの芳醇な果実の香りが鼻をくすぐり、別の箱からは焼きあがったばかりのタルトも顔をのぞかせている。
「こういうわけなんです。舞踏会のお誘いをいただいて、いてもたってもいられなくて……お邪魔でなければ手伝わせてください」
「ううん、とっても助かるよ！　ちょうどバタバタしてたところなのっ」
　どうぞと促し、屋内へと招き入れる。
　人手が足りないというのもあるが、何より景貴が手伝いに来てくれたことが嬉しく、心強かった。

　ホールのじゅうたんに掃除機をかけていると、玄関の扉がひらき、一人の少女が中へと入ってきた。
「こちらの方も準備手伝ってくれるらしいよ、柳霞姉」
　彼女を中へと通した紅林千尋が、そう紹介する。
「ふむ。ここが今日の会場か。人手が足りないと見て手伝いに来たのだが、構わないか？」
　少女――旅鴉月詠があたりを見渡し、柳霞を主催者とみて近づいてきた。
「ありがとう！　ぜひお願いします」
「さて、セッティングはどんな感じで行うのかな」
「あちらにカウンターを置いて、それから……」
　必要なことを確認し、手元のメモ帳に書き込んでいく。
　備品をチェックしていると、飲み物の保冷用の容器などがないことに気がついた。
「飲み物を入れるクーラーがあると便利だね。何か手ごろな容器があるといいのだが」
「あ、それならちょうどいいのがあります！」
　さっそく始まるミーティング。段取りにも詳しいとなれば、頼もしい助っ人だった。

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