ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●瞳に映る
　手短に開会の挨拶を終えた柳霞が、段差を降りて戻ってきた。
「はー、緊張した……」
　この日、柳霞が選んだのは裾フリルたっぷりの青のドレス。
　フリルの端は金のビーズで丁寧に縁どられ、青と金の配色がシャンデリアのあたたかな光のもとに映える。
　彼女がパーティの主催として前に立つのはしばらく後、
　ここからは彼女自身のダンスの時間だ。
　一緒にダンスを踊る相手は当然、決めている。
　弾むような足取りの先、立っている景貴のテールコート姿が凛々しい。
　女性を立てる配色はもちろんながら、
　蝶タイの下にのぞく白シャツが黒の威圧感をやわらげ、彼の人柄を演出している。
　ドレスの裾をつまんで挨拶すると、景貴も胸に手をあてこなれた仕草でお辞儀を返した。
「お招きいただいてありがとうございます」
「ほんとに来てくれてありがとう。景貴さん、いつも以上に格好いいよっ」
　にこにこと笑みを湛え、自分を見つめる眼差し。
「柳霞さんこそ、今日も可愛らしくて素敵ですよ。とても、綺麗です」
　同じように笑顔で見つめ返したところで、
　たがいに次の言葉が出なくなってしまった。
「……踊りましょうか」
　促すように手を差し伸べ、その上に少女の手が重ねられた。
　最初のポジションにつきながら、たがいの瞳を見つめあう。
　――さっきのは、言葉につまったのではなく。
　はじめの音楽がゆっくりと流れ出す。

　――もしかしたらもう、二人には。
　――たがいを褒めちぎる言葉など、いらなかったのかもしれない。