味覚の秋・米フェスティバル！｜リアクション

味覚の秋・米フェスティバル！

　魚ブース。こちらは霧生渚砂＆霧生深雪の義兄弟である。
「はふっ！　くあ～っ、うま！　なあ、深雪うまいな！！」
「やっぱり秋と言えば、秋刀魚だよな！」
　脂の乗ったサンマに、大根おろしと醤油、炊き立てのご飯。
　今、この瞬間、これ以上の組み合わせが、考えられるだろうか。
　漬物屋の梅川照喜を尋ねれば、５代受け継いだという糠床で作った糠漬けを、トレーに乗せてくれた。人の温かさを共に味わって、深雪もすっかり上機嫌だ。
「はぁ……秋空の下で食べるのも、また格別だ」
　向かいに座った渚砂を見れば、紅葉の瞳を細めて、お椀に口をつけた。
「んー、茄子の味噌汁いいなぁ……家でも作ってみよう」
「でもさ、ここ……甘い物はないんだな」
　ご飯のおかずだし当たり前か、ボヤいた深雪に
「忘れてた！　深雪は甘いものが欲しいかなと思って、作ってきたけど食べるか？」
　渚砂が取り出したのは、餡子だった。
「これでおはぎにしろってか？　まあ有難くいただくけど」
「深雪のためなら、お兄さん頑張っちゃうぜ！」
　そう言えば、朝も早くからゴソゴソしていたっけ。
　渚砂の献身に、深雪は何かモゴモゴ言いながら、即席おはぎを口の中に詰め込んだ。
　手作りおはぎは、優しくて暖かい味がした。

「よしっ、次は肉ブース行こうぜ、深雪！」
　テンションが振り切れた渚砂は、歩きながら目に付くものを買っては、胃袋に送っていた。
　ところが……。
「あ……」
「どうした、渚砂？」
「……お金、無くなった……」

「　　　」

　深雪の動きが止まる。
「うわぁ、そんな目で見ないでくれ！」
「つーか、結局所持金足りねぇんじゃねぇか！　もっと大事に使えよな」
　最愛の義弟に叱られて、しゅんと背中を丸める渚砂に、深雪は小さくため息をついた。
「仕方ない、俺が払ってやる」
「ごめん……」
「行くぞ、メインディッシュ食うまでは帰れねえだろ？」

　手分けして、炊きたてご飯のお代わりと生肉の人気の部位を持ち寄ると、二人は鉄板で肉を焼く。
　ミディアムの焼き加減で頬張れば、肉の柔らかさとパンチの利いたタレが、幸せな笑顔を運ぶ。
「美味い！」
「うん……」
　渚砂は、まだ落ち込んでいた。
「何だよその顔」
「うう、だって……結局、深雪に奢って貰って……」
　きつく叱りすぎてしまったろうか？
　深雪は首を捻ると、わざと明るい口調で言った。
「自分で焼いて食べられるなんて、バーベキューみたいで楽しいな！　ほら、そっちもう食えるぞ」
　最初はきょとんとしていた渚砂の顔にも、次第に笑顔が戻ってくる。
「ああ、なんかプチバーベキューって感じだな！」
　はふりと頬張った肉は、やっぱり美味しくて。
「あは、深雪が奢ってくれたお肉、特別美味しい！」
「……バカ」
　満面の笑みを浮かべる渚砂に、深雪は唇を尖らせた。

「お客様。そちらの御代、２００円です」
「え？　飲み物って無料じゃなかったのか……」
　飲み物をお代わりにいった渚砂は、すっかり薄くなった財布から、どうにか２００円を捻出する。
「お待たせー！　喉がカラカラだ」
　ごきゅごきゅ喉を鳴らして、グラスを空にした渚砂だったが、突然視界がぐにゃりと歪んだ。
「へ……？　これ、ビールだ！！　なんでビール！？」
　漸く、なぜ代金を請求されたのかに思い至る。
「捨てなきゃ寝てしまう……でも勿体無い！　す、少しぐらいなら……いや、これ、寝てしま……ねむ……」
　かくり、と渚砂の首が落ちた。
「おい！」
　立ち上がる深雪、しかし時すでに遅し。
　仕方なく、眠りこける渚砂を背負って、深雪は米フェス会場を後にした。

　●

　心地よい体温と、頬をくすぐる灰色の髪の感触に、霧生渚砂は目を覚ました。
　会場で酔い潰れた渚砂は、義弟の霧生深雪におんぶされていた。

「深雪……」
「ん？　起きたのか、渚砂」
「今日、自分ばっかり楽しんでしまったけど……深雪、楽しかったかな？」
　ボンヤリした頭で、どうしても気になる事を問い掛ける。
「ああ」
　たったそれだけの短い返答に、渚砂は背負われたまま目を伏せた。
「今日は本当にありがとう……久しぶりに深雪と出かけられて、楽しかった……」
　そのまま、深雪の肩に顔を埋める渚砂。
　深雪はしばし思案し、どうせ酔っ払いだしと改めて言い直す。
「まあ今日は、俺も楽しかったよ」
「良かった！　また４人で遊びに行ったりしたいな」
　家族で、揃って。
　皆、笑顔で。

「ああ、そうだな……」
　幸せそうな寝息を立て始めた渚砂に、深雪は柔らかく笑った。

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味覚の秋・米フェスティバル！

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