映画村ポルターガイスト　少し不思議なお片づけ｜リアクション

映画村ポルターガイスト　少し不思議なお片づけ

　片づけ組を最初に襲った霊障は、独り身であることを詰問された甚八の「哀」の感情に起因する。甚八が毎夜悩まされる類の現象が、倉庫を賑わせた。

「見ろ、おい、何か動いたぞ！」
　ユージーン・バーンズは凍り付いた表情のまま小さくわめいている。
「頼む帰らせてくれ私はまだ死にたくない！」」
　オーマイゴッド。頭を抱えてその場に崩れる。
　ガンッ。
「あいター！」
　百鬼諶之丞の後頭部にスパナが直撃。
「これはちょっとやっかいだな……おっと」
　御剣刀は器用に木刀を添え立て、飛んで来る小道具の軌道を逸らす。
　大小さまざまな倉庫保管物が、宙をさまよったり、床上をずるずる移動したり、あり得ないスピードで飛んで行ったり。ハサミやカッターはうまい具合に、亜魚隈猯利が縛りまとめたダンボールを切り解いていく。

「酷い散らかり様だな……」
　ここで新たに倉庫へやって来たのは神木煉。散らばる物たちを踏まないよう足場を選んで進む。
「とりあえず片づけを始めるとするか」
　料理のシーンにでも使ったのだろうか。手近に落ちていたまな板を拾った、そのときだ。
「あハーはー！　たスケてーくーダさーい！」
「ん？」
　煉のほうへ駆け寄って来る諶之丞。その後を追っているのは、ビームセイバーを持った仮面男だ。
「よロシくでーす！」
　追われる諶之丞、迫真というより状況を楽しんでいるようだ。煉の背後へ逃げ隠れる。
「うわっ」
　ビームセイバーが煉ののど元を突きにかかる。煉、咄嗟に持っていたまな板でそれを防ぐ。
「いきなり危ないな……っと問答無用か」
　これもポルターガイストの一つなのだろう。仮面男は容赦なく連撃。まな板がぱっかりまっ二つ。
「よっ」
　たまたま移動してきた椅子を跳躍で飛び越え、背もたれを持ち上げ連撃を防ぐ。
「オーまるデかんふー映画デスねー！」
「くっ……何か武器があれば……」
　防いでいるだけでは劣勢だ。煉、武器になるものを探すが、気圧されそれどころではない。

　……が、ここで突如として仮面男が攻撃の手を休める。
「……？」
　硬直したままの仮面男。周囲を見渡せば、他のポルターガイスト現象も止んでいるようだ。

　どうやら守衛室の甚八に変化があったようである。

（甚八のじいさん、楽しそうにしてるな）
　守衛室の様子を窓口から覗き込む吉祥寺黒子。輪に入ろうとは決してしない。自分のキャラではないと、本来の自分を押し殺す。
（倉庫の片づけも円滑にいってるといいけど）

　心配する黒子から少し離れたところでは、彼女とはまた対照的な「ワースト」がいた。
「妙に賑やかだな……」
　テロの下見という、穏やかではない思索に耽っていた草薙龍八だ。
「不良がたまり場にでもしてるのか」
　こっそりと中の様子を確認。
「寝子島の学生か。事の重大さに気がついてないのか」
　ククク……。静かに微笑む龍八。
「法律的にはこっちが有利だしな……善意だよ。善意」
　スマホを持ち出す。連絡先は映画村の管理会社だ。

　怪しい動きなど知る由もなく、守衛室では相変わらずほんわかした雰囲気が漂っている。消沈していた甚八の気持ちも優れ、ろっこんの現象が収まったという報告が円の元に届いていた。
（間違いない。ろっこん発動は甚八さんの感情に関わっている）
　確信する円。しかし、具体的にどんな感情で発動するのか。
　確かめてみる必要があった。
「恋愛には年齢や国籍、性別だって、私は関係ないと思いますよ。私の知るところですと俳優の○○と監督の△△が……」
　甚八は治と大福に恋の話や映画業界の秘話を披露している。その途中途中で、畳に寝転がるにゃーくんを気にかけていた。
（にゃーくんで試してみるか）
「甚八さん、にゃーくんの顎をこうやって撫でてみてください」
「ほ、ほう……こうですか？」
　ゴロゴロゴロ。
「そうです。にゃーくんすごく気持ち良さそうでしょう？」
　このとき、甚八の中で感情が大爆発を起こした。「喜」のフルオーケストラ。

　倉庫では今世紀最大のビックバンが訪れようとしていた。

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