冷し中華、始められませんでした｜リアクション

冷し中華、始められませんでした

【冷やし中華を作る者達（五）】

《畑中華菜子さんと屋敷野梢さんの場合》

　さて、少し時間は巻き戻り。
　海の家で畑中華菜子さんと屋敷野梢さんがそれぞれの冷やし中華づくりに励んでいたときのこと。
「こ、梢ちゃん！　う、宇宙人さんが来たアル！」
　店内に突如として現れた三人組（二人と一体？）に華菜子さんは思わず冷やし中華づくりの手を止めて、隣にいた梢さんの腕を引っ張ります。
「……うーちゅーじーん？」
　怪訝そうな声を上げて、梢さんが華菜子さんの指差す先を見て、しばし目を丸くします。
「……おー、なかなかそれっぽいですねー。でも、華菜子ちゃん。あれはただの人間ですよー？」
「ええ！？」
　びっくりして二度見する華菜子さん。
　そんな彼女をよそに、梢さんは冷静にジャッジを下し、淡々と作業に戻ります。
「まったく！　冷し中華をつくれというから来てみたものの、スープの具材になりそうなものがほとんどないじゃないですかー！」
　昆布とか鰹節とかその他諸々！　と、声はぷりぷりご機嫌ななめにも聞こえますが、その実、梢さんの表情はむしろそんな状況を楽しんでいるようにも思えます。
　というのも、基本的に困難な状況であるほど燃えるタイプの梢さん、
「スープは市販のたれをベースに酢と柚子胡椒で豚肉のクドさを和らげましょー。海ぶどうも酸っぱさがある方が引き立ちますしね！」
　どうやらすっかり火が点いてしまったようで。
　一方、
「……宇宙人さんにもラーメンの輪を広げたかったアル」
　ラーメンの輪を世界中――いいえ宇宙中に広げたいと思っている華菜子さんは彼らが宇宙人でなかったことにちょっとがっかり気味です。
「大丈夫ですよ、華菜子ちゃん！　この島には下手な宇宙人より宇宙人みたいなのがいっぱいいますし！」
「そ、そうアルね！」
　さらっとひどい美少女二人。ともあれ、そうして華菜子さんも気を取り直して冷し中華づくりを再開します。
「梢ちゃんの冷し中華、とっても美味しそうアル……！　でも、私も負けないアル！」
　華菜子さんはお酒で下味をつけた鷄ムネ肉を細かく切って、割いたカニカマ、ひじきとおきなわそばと一緒にお手製のごまだれ（市販のたれにいりごまとゴマ油をくわえたもの）半分に予め和えておき、お皿に盛りつけます。
　そしてその上に彩りとしてトマト、コーン、海ぶどうを配置に気をつけてトッピングし、最後に残りのごまだれをかけて、
「『ヘルシー冷やし中華』、完成アル！！」
　どーんとテーブルに置かれた彩り豊かな冷やし中華に、おじさんも思わず「おおっ！　これならカロリーが気になる女性層のハートもがっちりだな！」と唸ります。
「ほう。こいつはいいね。どっかの誰かの【Hell See 中華】とはエラい違いだよ」
　桜崎巴さんもそう言って思わず舌鼓。
「え？　ほかにもヘルシー中華をつくった人がいるアルか？」
「ああ。あそこでくたばってるアイツさ。まあ、ヘルシー違いだけどね」
「ひっ、良い笑顔のまま白目剥いてるアル！？」
　日暮ねむるくんの姿を見た華菜子さんがぎゃっと悲鳴をあげました。
「おっと、審査員のみなさん！　驚くのはまだ早いですよー！　私も完成です！」
　と、そこで今度は梢さんがテーブルに完成した冷やし中華をどどんと載せました。
「名づけて『冷しゃぶ風冷やし中華！』って感じですかねー」
「おお、涼しげでいいねぇ！　ちょっと酸味が利いたスープもいい！　これは柚子胡椒か？」
「お、正解でーす！　さすがですねー！」
　おじさんの言葉に梢さんがにこやかに応じます。
「酸味を利かせつつ、海ぶどうの塩辛さを引き立てる絶妙な薄さに仕上がっている。大したものだ」
「お、八神くんもわかってくれますー？　いやー、これは頑張ってみた甲斐がありましたねー。むむ、華菜子ちゃんのヘルシー中華もなかなかイケますよー」
「梢ちゃんの冷しゃぶ風もとっても美味しいアル！」
「梢ちゃんの冷しゃぶ風も華菜子ちゃんのヘルシーもとってもおいしいのだ！　あ、余った材料でつくった春巻き食べるなのだ？」
「後木さんのスタンダードもおいしいですよー。あ、春巻き頂きますー」
　いつのまにか現れた真央さんを交え、和気藹々と箸を突きあう三人。
　あまりに華やかな空気になんだかそこだけ別世界のようにも感じられます。
　そして十一、十二品目が完成しました。
　さて、残るはあと何品？

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