真夜中シンデレラ｜リアクション

真夜中シンデレラ

●普通の女の子で、シンデレラなんです

　気が付けばシンデレラになっていたのは宮祀智瑜だ。最初こそ驚いた物の、元々掃除も裁縫も好きだったので意地悪な姉達に掃除を言い付けられても苦にもせず、今日もせっせと床を磨いている。

「うん、綺麗になると気持ちがいいですよね」

　ピカピカに磨き上げた床を満足気に見て、智瑜はにっこりと微笑んだ。掃除が終われば姉達に頼まれたドレスの繕い物だ、鳥達の声を聞きながらちくちくと縫うひと時は智瑜にとっても楽しい時間だった。

「シンデレラ、今夜はお城で舞踏会ですからね。私達は行って来るから、お前は留守番よ！　いいわね」
「はい、いってらっしゃいませ。お姉様方」

　そうか、今日がお城の舞踏会の日なのねと智瑜は考える。そうすると、この後魔法使いのお婆さんが現れて私も舞踏会に行く事になるのだろうか。確かに舞踏会は気になる、いったいどんな煌びやかな世界なのだろうか。王子様への憧れだって、普通の女の子並にはあるのだ。
　そんな事を考えていたら本当に魔法使いのお婆さんが現れて、智瑜に魔法を掛けてドレス姿にするとガラスの靴を履かせてくれた。それはひんやりと冷たくて、少し吃驚したけれど南瓜の馬車に乗って舞踏会へと向かう。

「中はふかふかのソファになってるんですね、なんだか眠っちゃいそうなくらい乗り心地がいいです」

　置いてあったソファを抱きながら、そんな事を呟いてみる。馬車の窓から見える景色は綺麗で、なんだか幻想的だ。ぼんやりと景色を見ていると、馬車が止まり扉が開く。さぁ、智瑜にとっての舞踏会の始まりだ。
　舞踏会が行われているフロアに着くと、智瑜は少し低めの身長を活かしつつ、こっそりと人の間から他のシンデレラや王子様の様子を見る事にした。
　優しげな赤毛の王子と楽しそうにダンスを踊るシンデレラ、きょろきょろと辺りを気にするシンデレラ、眠たそうにしている王子様……色々な人達がそこには居た。そして色々な人達が踊ったり喋ったりしていて、智瑜は舞踏会って交流の場所なのかなと考える。だって、段々仲良くなっていくシンデレラと王子様はすごく楽しそうだ。
　途中、踊りませんかと誘われたけれど智瑜は首を振って断った。だって、踊った事がないから。そう呟くと、姉達がどこにいるかを探してフロアを歩く。少し行くと姉達が楽しそうにしている姿が見えた。

「よかった、王子様達と楽しそうにしてますね」

　智瑜はここにいる皆が幸せになればいいと願いながら、魔法が解ける前に帰る為にフロアを離れて城の外へと向かう。ガラスの靴は智瑜には硬くて足が痛くなりそうだったし、転んだら大変だと思ったので脱いで手に持って階段を駆け下りる。ふっと顔を上げて、大階段から見える景色を眺めれば街の家の光がとても綺麗に見えた。
　階段を駆け下り、南瓜の馬車に乗って家の前に着いた頃に０時を告げる鐘の音がなる。魔法は解けて、智瑜はいつもの繕い跡が目立つ服を着ていた。けれどその手にはガラスの靴、大事そうに抱えると智瑜は自分の部屋へと戻った。

「いつか、私だけの本物の王子様と一緒になれますように」

　そっと願いを籠めてガラスの靴を誰にも見つからない場所に飾る。
　私だけの、本物の王子様。それが、桐島先生であればいい……そう願って智瑜は目を閉じた。もう一度目を開ける頃には夢は覚めているだろうけれど、願いは智瑜の胸に残るだろう。ガラスの靴は智瑜に静かに光って見せた。

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