みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　季節は夏、恋々出オリーブが緑色の髪をなびかせて春風のように通りを駆け抜ける。ノースリーブのワンピースまで新緑に染まっていた。足元には愛機のオフロードラジコンカーが小気味よいモーター音を響かせている。
「このまま一気に桜台に突撃するのだよ！！」
　オリーブは操作用のプロポで愛機を左に曲げて北進した。墓石を右手に見つつ、藪の穴にも注意を向けた。
「怪しすぎる穴には躊躇なく飛び込んでしまう、マジかよぴかれる恋々ちゃんなのだよ！！」
　愛機のモーター音が高鳴り、急激に速度を上げた。手前の段差をジャンプ台にして穴に飛び込んでいった。オリーブが後に続いて穴を駆け抜けた。
　オリーブは両手を広げた。青空を見上げて笑顔で叫ぶ。
「魅惑のビーチに恋々ちゃんは心躍ってサンバ状態の超大感激なのだよ！！　恋々ちゃんの新たな伝説の始まりなのだよ！！」
　愛機が周囲を走り回る。
「伝説には相応しい登場の仕方があるのだよ！！　波に運ばれた空き缶を大量に積み上げて愛機ゴウイン・マイウェイ号と一緒に打ち破って恋々ちゃん登場ーなのだよ！！」
　オリーブと愛機は海へと走る。途中で見かけた砂山にオリーブの瞳が輝く。
「ゴウイン・マイウェイ号、魂を躍動させて頂上を制覇するのだよ！！」
　プロポを操る手にも力が入る。最短距離で愛機は砂山に突っ込み、崩れる斜面を凄まじいタイヤの回転数が捻じ伏せた。そして邪魔な一本を根元から圧し折って戻ってきた。
「流石はゴウイン・マイウェイ号、恋々ちゃん自慢の愛機なのだよ！！」
　股間の部分が完全に折られた。砂山から顔だけを出した真優は半開きの口で寝入っていた。
　オリーブは波打ち際で空き缶を探す。愛機は少し離れた砂浜をのろのろと付いてきた。
「綺麗な海には空き缶なんて落ちていないという常識に打ちのめされたのですよ！！」
　海に背を向けたオリーブは岩壁の近くにある物体を目にした。
「あんなところに恋々ちゃんの荒ぶる魂を封じ込める結界があるのだよ！！」
　オリーブは愛機を操り、猛然と駆け出した。近くで写真を撮っていた瑠樹に砂埃を上げて詰め寄った。
「この結界を恋々ちゃんの華麗な登場に使わせて欲しいのだよ！！」
「結界じゃなくて秘密基地なんだよぉ」
「その秘密基地の結界を是非とも借りたいのだよ！！」
「まぁ、いいよぉ。入り口は前や横にあるから、好きなところを選んでねぇ」
　格子状の秘密基地は大きな葉が屋根や壁に大雑把に使われていた。適度な隙間は見た目に涼しげで小柄なオリーブは横から愛機と共に入った。中は両手を広げるくらいの空間が確保されていた。
　オリーブは滑らかな動きで正面を向いた。愛機は先頭に位置して砂の滑り台と真剣に向き合う。
「この様な封印で我らの熱い魂を繋ぎ止められると思うてか！！なのだよ！！　恋々ちゃんとゴウイン・マイウェイ号は何者にも屈しないのだよ！！」
　愛機が唸りを上げてスタートを切る。砂の斜面を駆け降りて軽く地面でバウンドした。見届けたオリーブはスカートの汚れを気にせずに滑り降りた。
「世界に羽ばたく超型破り美少女、恋々ちゃんの降臨なのだよ！！」
　熱の籠った台詞に瑠樹は緩やかな拍手を送った。オリーブは大きく手を振りながら砂浜を走って派手なヘッドスライディングを決めた。笑顔で横に転がって俯せとなった。
　冷めた視線が岩壁の穴へと流れた。
「……穴が小さくなっていますね」
　無表情に近い状態でオリーブは淡々と口にする。
「元の世界に未練はありませんし、留まってみますか」
　起き上がったオリーブは愛機と連れ立って走り出した。
「どんな汚れも笑顔で吹き飛ばす、恋々ちゃんは今日も元気爆発なのだよ！！」
　夏の明るさと張り合う笑顔を見せた。