みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　早朝から空は気持ちよく晴れた。アスファルトは黒い鉄板のように早々と大気を揺らめかせる。
　その中、曖浜瑠樹は散歩を楽しんでいた。肩に届きそうな黒髪は柔らかく波打ち、後ろに束ねた小さな尻尾が無邪気に跳ねる。甘い紅茶を溶かしたような瞳は眠たそうに見えるが意外と腕の振りは良かった。
　猫の絵がプリントされたＴシャツに青い半ズボンの涼しげな格好ではあったが、夏の太陽は容赦なく照り付ける。瑠樹は山際の道を選んで歩いた。
　桜台墓地の手前で足が止まる。道に面した繁みに丸い穴があった。首を傾げながらも中に入ると海に出た。
「海だねぇ、砂浜だねぇ」
　瑠樹はのんびりとした声を出した。それに反して動きは機敏で穴の中を走って引き返した。
「水着がいるねぇ、あとは子供用のカメラかなぁ」
　走りながら指を折る。白い半袖のチュニックを着た花風冴来が道の端に寄った。えへへ、と笑った瑠樹はぺこりと頭を下げて走り抜けていった。
「子供は元気でいいね」
　そよぐ風に長い金髪の片方を押さえる。髪留めの青い薔薇に少し手をやって歩き出した。
　横手の穴を目にして再び足を止めた。
「あの世に繋がっているのかも」
　薄く笑った冴来は躊躇いのない足取りで穴の中に入っていった。

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