みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　青を基調に所々で藍色が配色されたチャイナ服は夏向きの仕様に見える。劉瑞麗は澄ました顔で砂浜に立ち、小刻みに目を動かした。二つのお団子状に結われた髪が、そわそわちとして揺れ動く。
「ここ、どこ？　とてもきれい」
　忙しない目の動きが止まった。軽く手を上げて由貴がやってきた。
「瑞麗も来てたんだな」
「ふー、いたか。ここ、何しにきた？」
「俺は目的があってきたんじゃなくて、海美に付き合ってきたっていうか」
　返答に困るような表情で由貴は返した。そうか、と口にして瑞麗は四方に視線を飛ばす。
「うー、姿が見えない。どこにいる？」
「ん、そうか？」
　瑞麗と同じように周囲に目をやる。由貴は小首を傾げた。
「いないみたいだな。ま、どっかにはいるか。で、瑞麗は何しに来たんだ、ここに」
「なに、するか」
　ぐるりと回って少し戻る。巨大な岩壁を前にして片手を垂直に上げた。
「るいり、これ、のぼる」
「瑞麗もあれか、自分の力を試してみたいのか？」
「るいり、ためすとはちがう。きたえるの方。つよくなってテキをたおす」
　袖から鉄扇を取り出し、一瞬で開いて見せた。それは扇形の刃物を思わせた。
「……小さいくせにやるじゃん」
　瞬間的な笑顔を消し去って由貴はそっぽを向いて言った。
「ねむるとは違うみたいだけど、がんばれよな」
「ねむる？　今はねむらない」
「本当に寝るわけじゃないぞ。そういう名前の兄ちゃんがいて、自分を試すとかで登っていったんだよ」
　由貴が指差した方向には誰もいなかった。
「もう、見えないな」
「るいり、まけない。ねむる、おいかける」
「小学生で岩壁は無理じゃ――」
　ハッ、と短い声を上げて瑞麗は岩壁の蔓に跳び付いた。少し引っ張るような仕草のあと、重力を感じさせない動きでするすると登っていった。
「……すげーな」
　一人になった由貴はぽかんと口を開けた。
「ま、俺は頭脳派だからな」
　岩壁に背を向けると足元の砂を軽く蹴とばした。