あ　そ　ぼ　？｜リアクション

あ　そ　ぼ　？

　貴賓室Ｅも桜庭円と天満七星が迷い込み、２人で探索を行っていた。

「自宅の扉を開けたら別世界だった……」
　桜庭は窓の外を眺めた。遠くまで続く墓石に、異常事態を読み取る。
「私も部屋のふすまを開けたら、ここに来てしまいました」
　天満がおっとり口調で困惑する。
「私の家は和風なので、強烈な違和感を受けますわ。ここはホテルなのでしょうか？　入ってきたふすまも消えていますし……」
「七星ちゃん、ここは貴賓室だよ。ほら、扉の『Ｅ』の文字の下に小さく書かれてる」
　恐らく誰よりも念入りに探査に力を入れる意気込みを持っていた桜庭だから気が付いたであろう、小さな文字。
　彼女は他にもベッドの下や掛けられた絵画の裏まで隅々探す。
「貴賓室ですか。随分と古いお屋敷のようですが……」
　天満は家電製品が真新しいことに違和感を覚えた。
「電気は通っているようです。小型の冷蔵庫の中身も冷えてます。あら、お水ですわ」
　天満はペットボトルの水（500ml）を入手した。
「万年筆もありますね。このカンテラは、持ち出していいのでしょうか……？」
「いいんじゃないかな、七星ちゃん。マッチもあるから、いくつか持っていこうよ」
　日暮れが近いため、館内は暗く視界が悪くなってきた。
　カンテラなしではこの先、動けなさそうだ。
　と、この時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
　身の危険をいよいよ感じた桜庭は、部屋を出る前に情報が欲しいと思い立つ。
「あ、内線電話だー。他の部屋に繋がるかも？」
　桜庭は受話器を上げて、適当にダイヤルキーを押してみた。
　するとコール音が鳴り出し、４コール目に繋がった。
「もしもし？　誰かいるの？　そこの部屋はどこ？」
　桜庭の問い掛けに、受話器の相手は一言だけ告げた。

　――いまからそっちへいくよ。

　自分より若干年下の少女の声だった。
　中学生くらいだろうか。
　桜庭は少女の声に酷い違和感を感じていた。
「まさか……」
　桜庭は自分の直感を信じ、その場から急いで飛び退いた。
　すると突然、天井からスレッジハンマーが振り下ろされ、桜庭のいた床を容易くブチ抜いたではないか！

　――みーつけたぁぁ。

　熊のぬいぐるみが瞬間移動したかと思えば、得物のハンマーを桜庭の頭上目掛けて躊躇わずに振り下ろしてきたのだ。
「七星ちゃん、逃げて！」
「は、はい！」
　天満は桜庭に促されて部屋から飛び出していった。
　一方、桜庭はハンマーを担ぎ直す熊に戦々恐々。
「ボクのろっこんで命拾いしたみたいだけど、いやー、なんていうか、ボクの知ってる鬼ごっこと違う。ルール見直そう？」
　後退しつつ回りこみドアの外までいけるスペースを作ろうと誘導する桜庭は、言葉を投げ掛けて時間を稼ぐ。
　だが桜庭の言葉を無視し、ハンマーを大きく振り被る熊。
「話が通じない、それなら！」
　サイドステップでドアまで飛び退き、勢いよくドアを閉める。
　急いでその場から立ち去ると、ドアの破壊音が桜庭の耳に入る。
「女の子の声だった。この屋敷はなんだろう？」
　彼女は考察しつつ、緩慢な動きの熊を引き剥がすべく必死に回廊を駆けていった。