学校で満喫するサマーバケーション｜リアクション

学校で満喫するサマーバケーション

【真実を求めて】

「まずは、名前とかクラスとか、そういう当たり障りの無いところから入るでしょ？　で、すこーし警戒を解いてくれたところで、趣味は何？　とか、好きな食べ物は？　とか。オフの日は何してるのー？　とかさ。徐々に踏み込んでいくわけ」
　八十八旗信彦がつらつらと語ってくれるのは、実に綿密な方法論。数々の経験……そこには辛い経験、痛い思い出も、多分に含められていることでしょう……に、裏打ちされた理論には、
「な、なるほど……さすが八十八旗くん」
　夢宮瑠奈も、感心することしきりです。
　隣を歩く常盤四月も同意しながら、
「そうそう、で、最後は質問攻めに……ね！　好きな異性のタイプは？　彼氏いる？　内臓の色は何色？」
「最後の情報、いるかな！？　胡乱路先輩って、宇宙人か何かなの……？」
　などと、賑やかに雑談と相談を交えつつ廊下を行く三人。
　彼らには、この夏にぜひとも解き明かしたい、とある謎を追う……という共通の目的があり、こうして夏休みの学校にて集合しているのです。
　その謎とは、ズバリ！
「胡乱路秘子捜索隊！！」
　ずびしっ！　四月が、高らかと腕を掲げて言いました。
「深夜に流れる、謎のテレビ番組……その謎めくストーリーテラー！　それが、寝子高に通っているかも知れないなんて……夏にぴったり、ぞくぞくしちゃう！　これはぜひとも、新作のネタのために、突撃インタビューを敢行しないとね！」
　と、売れっ子女子高生漫画家、月に連載を幾本も抱えているという四月センセイです。その決意は、実にカタイ模様。
　そうなのです。
　昨今、あちらこちらでまことしやかに囁かれる、あのウワサ。特別に選ばれた人だけが見ることができるとか、その出演者となってしまった人には、もれなく不幸が付きまとうとか。逆に幸運を手に入れることができるとか、できないとか……そんなウワサの錯綜する、とある都市伝説めいたテレビ番組。
　その司会進行役を務める謎の少女が、なんと、この寝子島高校に通う生徒であるらしい！　なんて言うのです。
　まぁそんな、ちょっとウサンクサイ話を聞きつけました三人。真相を漏れなく解明すべく、こうして集まっている、という次第なのでした。
　とはいえ。三人の目的はさておき、その動機は、それぞれにちょっとずつ違っているようでして。
　四月は先の言葉通りに、漫画家として、新しい作品に活かすべくネタ探しに。
　信彦はと言いますと、
「できればデート……とまではいかなくても。次にまた会えるように、約束を取り付けたいところだよね。ところで二人とも、これが終わった後、空いてる？　俺と一緒に、お茶しにいかなーい？」
　いつものごとくのぶれなさ。詰まるところ、ナンパです。四月をして、歩く都市伝説などと言わしめる相手をお茶に誘おうとは、サスガの豪胆さ。ついでに、同行者の女性二名へきっちりと声をかけるのにも、抜かりはありません。
「悪いけど、遠慮しとく～。取材に執筆に、それどころじゃないし」
「あたしも……ていうか、八十八旗くん、彼女いるんでしょ？」
「それはそれ、これはこれ。見知らぬレディを見かけたら、声をかけるが紳士の義務！　ってね？」
　と、自称紳士、一度目をつけたターゲットへは、まさしく誘導ミサイルのごとき追尾性能を発揮する信彦。
　マンガの担当編集さんから、本格的なカメラまで借り受けてきたという、気合十分な四月。
　そして、瑠奈は……そんな二人と比べれば、ちょっと引いたところから、事に臨んでいたりしました。
　確かに瑠奈も、例の都市伝説や噂については、大いに気になるところではあります。わざわざこうして、そのために夏休みに学校へ出かけてくるくらいですから、これはぜひ、確かめないといけないですネっ！　といった気持ちは、もちろんあるのです。
　ただ、瑠奈にとってはあくまで、それは学校へ来る口実のようなもの。
（……ふふっ。何か、いいよねぇ、こういうの）
　盛り上がる四月と信彦を、瑠奈は微笑ましく眺めます。
　学校という空間で、こうやって友達と一緒に、遊んだり、バカなことをやったり、他愛も無い雑談に興じたり。一つのことに、みんなで取り組んだり。そんな何気ない感じが、瑠奈にとってはとても楽しく、嬉しい時間なのです。
「おっ！　まずはあそこに見えるレディに、聞き込みだ！」
「オッケー！　行こう、夢宮さんっ」
「……あ。うんっ」
　だだだーっと駆けていくパワフルな四月と信彦に、瑠奈はくすりと笑みを浮かべてから、その背中を追いました。

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