甘味処、神楽。新メニュー考案会と試食会のお知らせ｜リアクション

甘味処、神楽。新メニュー考案会と試食会のお知らせ

「お待たせしました。今から試食会を行いますねー」

　店内の至る所に元々取り扱っていた商品や、先ほど作った品物が所狭しと並ぶ。
　今か今かと待っていた源一は飛び出さないまでも、心待ちにしていたようで、すぐさま自分の分を確保する。

「これはケーキか……。おお、中に栗かが入っているのか？　クリームはいもあんか。うむ、うまいな……」

　相変わらずの仏頂面ではあるが、時折頬を緩ませる姿を見せる源一に、外で様子を伺っていた人たちも中に入ってくる。
　鈴掛瀬威もそんな一人だ。
　曲作りの一環で甘味屋巡りをしていた所だったが、丁度試食会が始まったところで様子を見ていた。

「おお、美味しそうな物ばかりだねぇ」
「どれも美味しいですよ。是非お召し上がりください」

　素直な感想をぽつりと漏らした瀬威にエクルが試食用の小皿に品物を取って渡す。
　やはり全部食べようと、瀬威は好物の甘い物を目の前にしてそう決意を固める。
　新メニュー考案の試食会と書かれているところから予想するなら、いくつかしか追加されないというのは予想できることだ。

「やっぱり、食べるなら全部食べたいよね。うん、美味しい」

　可愛らしい猫の意匠が凝らされたクッキーや、肉球型のまんじゅうを食べながら瀬威は素直な感想を漏らす。

「暫く来ていなかったから気付かなかったけど、代替わりしていたのか……」

　斜め向かいの席に座っている源一がぽつりとそう漏らしたのを瀬威は聞き逃さなかった。

「最近代替わりした店なんだ」

　瀬威はふうんと独り言の様に呟いた。
　前の味を知らない瀬威だが、意匠を凝らして作られた物が新メニュー予定である事は容易に想像できた。
　甘さを控えたみたらしや、少し歯ごたえのあるようかん。
　甘すぎると感じる物もあれば、そうでないものもある。
　そのどれも馴染みの良さを感じさせた。

「昔食べた味も恋しいが、俺はこの味も好きだな。これはこれで……いいと思う。ごちそうさま」

　源一が席を立ち、エクルに感想を伝えていた。
　それを瀬威は目で彼を追ってびっくりした。
　強面なのは分かっていたがそれ以上にその巨体に驚いた。
　そんな人でも虜になるのだ。
　やはり甘味は正義である。

「うん、何となく歌にできそう」

　今の甘味処の様子を見て、フレーズが浮かんだ。
　忘れないようにメモをする。
　暫く、瀬威は店内を観察する。
　そうすると、新しく来店した御鏡聖がエクルと何事か話をするなり、

「相席よろしいですか？」

　ふわりと柔和な笑みを浮かべながら瀬威に問いかけてきた。
　よくよく見ると、試食会効果か席は埋まっており、瀬威の目の前しか空いていない。

「あ、はい」
「ありがとうございます。ここのお菓子美味しいですよね」
「そうだね。今日たまたま初めて来たんだけど、気に入ったよ」
「そうですか！　私はこのお店に良く来るのでそう言ってもらえると嬉しいです！」

　我が事のように喜ぶ聖に瀬威は警戒心を解いた。
　それから暫く相席になったよしみで聖と瀬威は雑談に興じた。

「そういえば、試食品はもう食べられました？」
「うん、全部つまみはしたかな」
「どれがお好みでしたか？」
「そうだなあ……どれも甲乙つけがたいけど……」

　うーんと唸る瀬威。その姿に吹き出してしまう聖だった。

「どれも美味しかったですよね。意地悪な質問をしてすみません」
「いいよいいよ気にしないで。っと、他のお客さんに迷惑かかるといけないから、そろそろ僕はお暇するね。いい詩も浮かんできたし！」
「はい、お話に付き合ってくれてありがとうございました」
「ううん、こっちこそありがとう！」

　じゃあと手を振って瀬威は席を立つ。
　店を出る前にエクルに感想を伝えるのも忘れないで。

「ごちそうさまでした。今日は素敵な甘味に出会えて幸せだったよ！」

　それにまた来たいという旨を伝えて瀬威は店を後にした。
　今日は本当にいい詩がかけそうだ。