伝説のジャンボらぁめん｜リアクション

伝説のジャンボらぁめん

　和室から戻ってきた竜也と時子の二人は、華菜子に華蓮の様子を伝える。彼女は少々へばっているだけで、少し休めば元通りになるだろう。
　挑戦再開の空気なのだが、どこか盛り上がりに欠ける。皆華蓮が心配なのだろう。
　瑞穂は周囲を見回す。彼女はもうリタイアを決めてはいたが、他の挑戦者の皆は楽しく食べてほしいと思う。
　ふと、瑞穂は思いついた。少し場を盛り上げようと。
「すごい食べっぷりだけど辛くないの？」
　刀に声をかければ、彼は小さく首を横に振る。
「辛さも俺が食べられる辛さだし、大丈夫です。こういうのは新陳代謝を上げてくれるから健康にも良いし、好きですよ」
「辛いのに強いのね。凄いなー」
「い、いえ。普通、です」
　赤面して照れる竜也の仕種に、瑞穂は初々しいなぁとにんまりと笑う。
「辛味って食欲増進の効果があるらしいから、もっと辛くしたら、もっといっぱい食べれるようにならないかしら？」
　あくまで独り言のように瑞穂は言って、にっこりと後輩の少年三人を見る。
　それに真っ先に反応したのは利平だった。スープを前に迷っていたので瑞穂の独り言は渡りに綱である。
「なるほど、辛味の追加か。それもアリだな。なら俺はこのラー油を選ぶぜ！」
　利平は調味料が並ぶトレイからラー油を選ぶと、慎重な手つきでスープに一滴投入。
　そのまま巨大丼を両手で持ち上げてスープを飲み――、そのままの体勢で停止する。
「……ちょ、ちょっと握君？　辛すぎた？　大丈夫？」
「わ、私お水注ぎますね」
　ちょっぴり悪戯が過ぎたかと慌てる瑞穂と水の準備をする時子だが、当の利平は何事もなく再起動。彼はごっごっごっとスープの五分の一を飲み下し、ごとりと丼をカウンターに置く。
「はい、お水です。利平さん、お代わりが必要なら言ってくださいね」
　時子は利平の前に新しいレモン水を置くと、心配そうに彼を見る。しかし利平の視線は自分の丼に落ちたきりだ。
「…………何コレうめえ」
　本気で唖然としている利平の呟き。
　調味料を入れての味の変化は僅かなものだろうと高を括っていたのだが、ここまで劇的な変化があるとは。予想外だった。
「戦略とはいえ、どうして俺は麺と具を残さなかったんだ……！」
「くくく、まだまだ青いのぅ……！　ちなみに味玉の黄身を溶かしても味に変化は起こるぞ」
　悔しがる利平に源次郎は楽しそうに声を投げる。そのやり取りを見た辛うまジャンボ挑戦者達の行動は早かった。
「あら、美味しい！　ピリっとくるけど、すぐに辛さが消えるわ」
「いい発見だな」
「油そば風になってうまうまうまなのだっ！　はー、味玉もなかなかなのだー」
　それぞれラー油を使い、新たな味の変化に舌鼓を打っている。
「……利平。替え玉、いっとくか？」
「い、いや。欲を張ったら台無しだからな。ここは、我慢だ！」
　辞退し、利平はこれで最後だとばかりに丼を持ち上げる。
「――ぷはっ！」
　店内の誰もが固唾を呑んで見守る中、とうとう利平はスープをすべて飲み干した。ごとりと空の丼がカウンターに置かれる。
「辛うまジャンボラーメン、完食だ！」
　利平の宣言に、わっと拍手が巻き起こる。
　その中でも水姫の拍手は大きい。去年、自分の隣で敗北した後輩の成長が嬉しいのだろう。
　舞華が利平にマイクを向けた。
「今のお気持ちをどうぞ」
「とうとうやり遂げたぜ！　後木達も頑張れ！」
　源次郎からラーメン一年間無料券を受け取り、利平は誇らしげに笑った。
　――そして数分後、制圧者が次々と現れる。
「っしゃー！！　食べ、きっ、た、のだー！！」
「同じく！　いや、美味しかったよ」
　真央と刀が同時に完食する。後半ひやりとする部分もあったのだが、利平の勝利の姿に負けん気を刺激されたのが幸いした。
「おめでとう！　皆いい食べっぷりだったわ」
　水姫はぱちぱちと拍手をし、にっこりと微笑んだ。