むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～｜リアクション

むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～

　　【もう届かない声】　

　「殺された者の声はもう二度と聞けない、その仕草も、笑い方も。
　……綺麗だったその舞も」
　それは──学生支援部の夏神零の事だろう。御剣刀はぎりと音がするほどに、剣の柄を握り締めていた。
　木刀などとは比較にならない重さと作り。しかし、思ったのだ。
　『人を殺せる得物でなければ、殺された人が報われない』と。
　刀は、既に生き返らない人々に残された人の手紙を読み続けた。
　そして、今。その手紙１枚の涙よりも重い現実を見せ付けられた。
　
　それでも、刀の言葉に割り込む様に修は言葉を搾り出す。
　最後の力を振り絞るように、狂騎士に語り掛ける。
「フィナン、これから言う事を良く聞いて欲しい。
　姫への感情は「愛」。愛と忠誠は別だ。
　愛する姫がいる国を守るんだから、国守る事は姫を守る事。

　呪いは成立条件を満たさない
　呪いは無効だ！」

　しかし、修の声にも狂騎士の様子が変わる事は無い。

　「──説得なんか、無意味だ」
　「待て！　御剣！！」
　「……言う事は聞けない。実力で止めてみろ」
　八神修は何としても、彼を説得したかった。しかし、圧倒的な力の前に刀の言うとおり、本来ならば説得している暇すら無いのだ。

　脳裏に撃鉄がおちる、また──御剣　刀は、一人の世界。
　どこか遠くで新井米太郎の「もう……無理……」という声が聞こえる。
　その瞬間、狂騎士の穂先を持つ速度と範囲がほぼ倍にまで広がった。
　加速でなければ。
　槍が折れていなかったら。
　負けていたのは自分だったのかも知れない……そう、加速した自分だけの世界で、刀はリーチの短い刃物と化した、過去栄光を謡われた槍の穂先を弾き。
　その両手で掲げた剣は。手首を貫くようにブレスレットを破壊した。