むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～｜リアクション

むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～

　　【それが～～だから】

　「───はは、ははは……っ、はははっ」
　兵が集まったその瞬間──不意に、急な笑い声がフィナンの横の方から響いた。
　見れば、灯斗南が笑っている。その素顔に仮面をつけて。

　「確かにこれはいいものを見せてもらった！
　お前達を襲っていたのはフィナンではなく魔女の手先の自分だ。炎を盾にして、槍を武器にすれば、簡単に騙されてくれる」
　王女の行方不明に集まってきた兵士達、そして仲間の誰もが自分の耳と目を疑った。

　──魔女の手先、そんなはずは無い。彼は寝子島の時からずっといる仲間だ──！！

　誰かがそう叫ぶ前に、斗南は殆ど動けないフィナンとそれに寄り添うエルダ王女に向けて巨大な火球を叩き付けた。
　その瞬間、王女のブレスレットがフィナンの物とは比較にならない輝きを放ち、その火球を打ち返した。
　そこで、誰とも無く悟る。
　王女がブレスレットをこちらに渡さなかったのは、王女がフィナンを殺す為、一人単独で動く為の、唯一の護身武器だったからだと。
　斗南はその避けられる火球を自ら避けずに体で受けてダメージを負う。
　「しかし、魔女の居城で同胞を殺したのは……！」
　兵達に動揺が走った。
　「……幻覚の魔法一つで陥れられるのだから、この国の兵の質もたかが知れてるな」
　
　「捕まえろ!　フィナンに汚名を着せたばかりか、救世主様方に紛れ込むなど！　斬首刑だ！」

　「待って下さい！　その方は間違いなく異界の──」
　王女の言葉すら遠くに言ってしまった兵達には届かない。

　「一体、彼は何を考えているのでしょうか」
　「……！　灯さんは、全ての嫌疑を自分に向けさせようとしているのではないでしょうか。
　このままでは、狂騎士──フィナンさんは間違いなく処刑されます。王女も今以上に少なからず責任を問われます。それを軽減する為に……！」
　常闇月の独り言じみた発言に、アリーセが我に返ったかのように答える。

　「私、追って──！！」
　「待って下さい、王女様！」
　止めたのは八神修だった。何か考えがあるようだ。

　それを聞いた王女は後から走ってきた兵士に告げる。
　「申し訳ありませんが、フィナンを元に戻して下さったこの方々と話をしたいのです。先に城に戻っていてくれませんか」
　「しかし、フィナン殿がいつまた──！」
　兵士は兵士で声を掛けたのは失言だったと己の口を閉ざす。
　王女のエメラルドグリーンの瞳は王族にあるまじき剣呑な光を放っていた。

　「何かこの場で聞きましたか？」
　「いえ！　この身は何も伺ってはおりません！」
　事実、耳にしていないのが幸いした。
　「何かあったその時は、貴方も私も死ぬ時です。今生きている事に感謝して今すぐこの場を離れなさい」
　「はっ！！」

　「王女様こえ～……」
　兵士達の去り行く背中に、新井米太郎がぞっとしない様子で横目に王女を見やる。
　王女は、その視線から敢えて背を向け、修に目を向けた。
　「何か手段が？」
　「斬首刑…という事は公開処刑という事ですよね。──庶民に紛れて斬首台に一番近づける場所はどこですか？」

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