捨てられた楽園｜リアクション

捨てられた楽園

　水色のノースリーブを着た大天使天吏が九夜山の道を気ままにゆく。囀る鳥の声を耳にする度に足を止めた。
「とても楽しそうね。友達なのかしら？　私にも、新しい友達ができたの」
　眼帯を付けていない右の瞳が微笑む。
　天吏は鳥達の挨拶回りに忙しい。チチチ、と鳥が囀れば軽やかな足取りで近づいて囁く。
「あなたの声、可憐で素敵だわ。私の友達は悪声だから。ふふ、友達をそんな風に言ってはいけないわね」
　風に急かされて天吏は歩き始めた。
　木々に覆われた道に光のスポットライトが点々と当たる。たくさんの鳥が集まっているのか。四方から囀りが聞こえてきた。
「鳥が観客なら、私は踊り子ね」
　陽光のスポットライトに足を踏み入れて、天吏は風とワルツを踊った。用意された光の舞台を渡り歩く。
　辺りに光が満ちた。道沿いの雑草が繁茂した場所に天吏はふわりと腰を下ろす。掌で草の感触を確かめて、その身体を預けた。
　横向きになった途端、緑の中に沈んだ目が閉じそうになる。
「……こんなに、柔らかいのね。まるで……緑のベッドに、いるみたい……」
　踊り疲れた天吏は天然のベッドに半身を埋めて微かな寝息を立て始めた。