捨てられた楽園｜リアクション

捨てられた楽園

　朝陽を浴びた九夜山が緑色に燃えている。
　廃神社になって久しい九夜神社にも等しく恵みの光は降り注ぐ。境内は掃き掃除を終えたばかりなのか。目に留まるようなゴミは落ちていなかった。
　碓氷真理は拝殿に一人で向き合う。正面の賽銭箱は歪ながらも復元されていた。
「まあ、ひしゃげてはいたけど、板自体はしっかりしていたからね。拾い集めた釘や石でなんとかなったよ」
　浮かない顔の真理は小ぶりのリュックを背負い直し、拝殿に背を向けた。僅かに細めた目で空を見上げる。
「ホラーハウスのバイト、悪くなかったのに潰れそうなんだよな」
　少しの間を空けて表情が明るくなった。そうそう、と相槌を打つような声を出す。
「千佳姉が演じた偵子さんは最高だよね。本気で泣き出す客もいたし。『リンク』の映画ヒットの後押しもあると思うけど、あの這いずり方や声なんか、本物そっくりだよ」
　親しい友人と語るように真理は朗らかに言った。
「ま、考えても仕方ないか。新しいバイト先を見つけないと」
　蒼色の長い髪を風になびかせて真理は颯爽と山を下りていった。

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