数多の夜を超えし腐敗の王（アサリ）｜リアクション

数多の夜を超えし腐敗の王（アサリ）

●数多の夜を超えし腐敗の王よ、安らかに眠れ

「これを返しに来た。さっさと埋めよう」
　恵御納夏朝と北原みゆきにアサリを返すついでにと、亜魚隈猯利は、見かけ倒しな偉大な王が眠る場所作りを手伝うことに。
「真央ちゃんも、アサリを埋めるお手伝いをするのだ！」
　テオを探していたのだが、見つからないので諦めた後木真央は海の家で潮干狩りグッズを借り、意気揚々と砂浜にやって来た。
「酷い臭いの原因はこいつか……酷いな」
　腐臭がする場所を辿ってきた御剣刀は、こいつをどうにかしようと、アサリを埋めるのを手伝うことに。
　傍迷惑な腐臭が漂っていては、せっかくのテオの厚意が無駄になる。
　さっさと埋めて、プライベートビーチを満喫しよう。
　
　隔離解除後に動物が掘り出すとまずいので、５０センチから１メートルくらいの深さに掘ってから埋めようという夏朝の案に意義はなかった。
（偉大な王たる数多の夜を超えし腐敗の王が眠るに相応しい、立派な墓廟を建設……する技術は俺にはない）
　それでも前方後円墳かピラミッドくらいは作れるだろうと、こういうのはどうだろう？　と提案する猯利。
「王の封印にふさわしいお墓です。私もそれがいいと思います」
　みゆきが賛成するので、猯利提案のピラミッド型の墓を協力して作ることにした。
　腐臭が周囲に漂わないよう、５人は力を合わせて深く掘り、アサリを穴の中央に置き、臭いものに蓋をするように埋める。
「封印は終わりました。次はお墓を作りましょう。これで、勇者みゆきの使命は果たされます」
　勇者気分なみゆきは、ノリノリでピラミッド作りに励む。
「みゆきちゃん、楽しそうなのだ。真央ちゃんも勇者になるのだ！」
「僕も……いい？」
「うん。皆で勇者になろう」
　勇者な女性陣のノリについていけない猯利は、少し頭が痛くなってきた。
（早く済ませて、さっさと釣りをしよう……）

「これでいいかなぁ？」
「こんなものなのだ？」
　仕上がり具合をチェックし、何か足りないような気がするみゆきと真央。
「じゃあ……仕上げにこれを」
　アサリを砂に埋め、墓を完成させた夏朝は『数多の夜を超えし腐敗の王の墓』と書き記した木の棒をピラミッドの中央に突き刺した。
（……次は幸せになるんだよ、アサリさん）
　夏朝は、数多の夜を超えし腐敗の王に黙祷。
「なむなむなのだ～♪」
　手を合わせ冥福を祈る真央。
　その隣では「勇者としての役目が終わってしまいました」と涙ぐみ、座り込んでしまったみゆきが。
　みゆきがアサリの死を悲しんでいると思った刀は「優しいんだな」と慰める。
（これで臭いが消えたな。一安心だ）
　内心、こう思ったのは内緒。
　猯利は見かけ倒しなアサリだったと思いながら、ピラミッド型の墓をじっと見ている。
「それじゃ遊びに行こうなのだ……ハッ！？　あれは！！」
　近くの岩陰から、何かが動いたのを真央は見逃さなかった。
「テオかもしれないのだ！　真央ちゃん、これで失礼するのだ！　テオー！」
　何かが動いた方角にダッシュする真央。
「俺は、釣りの続きをする」
　釣り道具一式を持ち、猯利は新たな釣りポイントを探しに行った。
「さて、アサリさん埋めたし……後は遊ぼうか」
「賛成！」
　先程までのしんみりムードはどこへやら。
　夏朝の言葉に、皆の気持ちは、数多の夜を超えし腐敗の王埋葬から、ビーチでおもいっきり楽しむことに切り替わった。

「アサリ、埋め終ったみたいね」
　海の家の窓際の座敷を陣取った桃川圭花は、天井に取り付けられている扇風機の風にあたりながらアサリが埋められるのを見ていた。
　これにより腐臭が消えたので、ビーチで思いっきり遊んだり、海の家でゆっくりできる。
（……このところずっと、昼間は買い物に行き、遊びに行き、夜はお祭りに天体観測。補習あったり、どこか大きな国の大統領か首相みたいに予定いっぱいだったわ）
　何にもしないでいるのがもったいないと思うが、今はゆっくり過ごしたい。
「暑いですね、桃川様。冷たいお飲物はいかがですか？」
「いただくわ。とりあえず、カフェフロートひとつお願い」
「かしこまりました」
　注文を聞き終えた檜扇唱華の振る舞いは、海の家でもメイドだった。