マイ・フェイバリット｜リアクション

マイ・フェイバリット

●二人で作ったお気に入りのお菓子

　八神修は、星ヶ丘の自宅で七夜あおいとロッシェを作っている。
　しっかり泡立てるメレンゲ作りに苦心するあおいに、砂糖を少しずつ加えながら「ちゃんと泡立っているよ」と安心させる。
　卵白をさらに固く泡立てるのは自分が、とあおいと交代し、コーンスターチを加えてさっくりと混ぜる。
　混ぜ終わったらクッキングシートを敷いた天板に、スプーンで卵白のメレンゲを落とす。
「オーブンの予熱が終わったよ。焼こう」

　ロッシェが焼けるまで、映画を見ながらお茶を。
（二人で映画を見るのは、映画喫茶以来かな）
　そんなことを思いつつ映画を見ていると、白猫のミルクが近づくなり、あおいに甘えてきた。
「ミルクは、あおいにも懐いているね。可愛がられているとミルクが嬉しそうだよ」
「懐いてくれるのは嬉しいな」
　膝の上に乗って擦り寄ってくるミルクの頭を撫でながら、あおいがこんなことを言った。
「修くんとミルクちゃんの出会い、どんな感じだったの？」
「この前みたいに『修』って呼んでもいいんだよ」
　私、あの時に呼び捨てしちゃった？　とあおいが謝るので「俺は嬉しかったから、これからもそう呼んでほしいな」とお願い。
「……まだ恥ずかしいから『修くん』でいい？」
「呼び捨てしたくなったらいつでも」
　話を戻そうと修はミルクを飼うきっかけになった宝石泥棒カラス事件のことを話し始めた。
　化学部の活動をしていた時、理事長が怪我をした猫の手当てをしていると知らせがあったので部室にある救急箱と色ガラス棒を持って駆けつけた。
　猫の怪我が治るまで自宅で過ごさせようと思ったのだが、懐かれてしまったので家に連れ帰ったのだった。
「すっかり心を許してくれてから、この子を飼うことにしたんだ」

　飼うことが決まったので、名前を決めなければ。
　名前をメモした単語から選ばせようとしたのだが、お気に召すものがなかったらしいのか無関心。
　お腹がすいたようなので牛乳をあげたところ、おいしそうに飲み始めたので「ミルク」にすることに。
「安直な名前だけど、好きな名前で呼ばれる方がいいかなと思って。この子が自分で選んだ名前と言ってもいいかな」
「そうだね。いい名前をつけてもらえてよかったね、ミルクちゃん」
「幸せだと思ってくれてたら嬉しいな」
　ミルクと会えて良かったと、修は、あおいに甘えるミルクの頭を優しく撫でる。
　家族愛に薄い少年期だった修にとって、家族は特別な存在だったのでこれには驚いた。
「素敵な家族に出会えてよかったね」
　うん、と言っているかのように甘えた声で鳴き、ミルクはあおいにスリスリする。
「あおいの大切な弟と妹達の話とかも聞きたいな」
「私の弟と妹の話？　えっとね……」

　映画を見たり、お茶を飲んだり、ミルクと遊んで過ごしているうちにロッシェが焼けた。
　オーブンを開けると、甘い香りと温かい幸せが修とあおいを包むかのようにキッチンに広がった。
「うまく焼けたかな？」
　そう言って、修はロッシェの味見を。
「おいしく出来たよ。あおいも食べてみて」
　修が差し出したロッシェを食べたあおいは「おいしい……」と蕩けるような表情に。
「砂糖の味は幸せの味だね。そう思わない？」
「うん、そう思う。『somnium』のひな祭り限定の桃のスイーツもおいしかったけど、こっちもおいしいね」
　焼きたてのロッシェを見ていうあおいを見て、喜んでくれて嬉しいと修は、また一緒にお菓子を作りたいなと思う。
　協力して作ったロッシェの甘さは、二人のお気に入りの味になったようだ。

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あとがき

担当マスター：カターレ
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