マイ・フェイバリット｜リアクション

マイ・フェイバリット

●あなたと私のお気に入り

「珪さんの好きなものや、お気に入りの場所とかもっと知りたいです」
　綾辻綾花は、早川珪とのデート中にこんな話題を切り出した。
　珪の好きなものをもっと知りたい。どんなものが好きなんだろうと興味津々。
　綾花の好きなものは本やにゃんこというのは珪も知っていると思うが、実は、珪の部屋も好きな場所だ。
　勉強を教えてもらったり、誕生日をお祝いしたりで何度か入らせてもらったが珪の部屋は居心地が良かった。
「卒業したら、また行っても良いですか？」
　そう聞いてみたかったが、珪の好きなもの、お気に入りの場所を知りたかったので、それは後で聞くことに。

　珪の部屋だけでなく、彼とお揃いの万年筆も綾花のお気に入りだ。
「万年筆って使ったことなかったけど、珪さんが書いてる姿を見てるとカッコよくて大人な感じがして」
　初めて使った時は思うように文字を書けなかった。
　諦めずに何度も書いているうち、次第に綺麗な文字が書けるようになってきた。
　綺麗に、上手に書けた文字を見ると、上達した気がして嬉しくなると書き心地について語る。
「お揃いの万年筆を買ってから使ってますけど、書き心地も良くて手になじむし、見ると珪さんのことを思い出して嬉しくなるんです」
「そう言ってもらえると嬉しいな。もっと万年筆を使いこなせば、カッコよくて大人な感じな文字が書けるようになれるよ」
　何事も続けることだよ、と珪は綾花の肩をポンと叩く。
「正しい書き方、正しい持ち方で書いていると愛着がわいて自分の書く文字も今までとは違った味がある文字になるよ。そう思わないかい？」
「そうですね」
　文字を書く機会が少なくなった現代だからこそ、万年筆といった筆記具にこだわりを持ってほしい。
　手書きの文字の暖かさを知ってほしい。
　そうすれば、より文字を書くことが楽しくなると珪は言う。
　そんな話をしているうちに、二人には本好きの他に、万年筆で文字を書くと言う共通点ができた。

「これからも珪さんと好きな場所やものを増やしていきたいですし、共有していけたらいいなって思います」
　お気に入りのものの次は、お気に入りの場所の話題に。
「私の新しい部屋も、珪さんのお気に入りの場所になったら嬉しいです」
　綾花は寮を引っ越し、今は珪が住んでいるアパートの近い場所にある新しい部屋に住んでいる。
　綾花と珪は生徒と教師という関係は、もうすぐ終わる。
　進展する予定の関係にドキドキしつつ、綾花は、互いの部屋を行き来できるようになれば……という期待が。
「珪さんの好きなものやお気に入りの場所など聞けたら嬉しいです。場所なら一緒に行ってみたいです」
「僕のお気に入りの場所かい？　そこはね……」
　大好きな人が好きな場所、お気に入りの場所。そこはどこだろう？
「寝子高の図書室だね。好きな本に囲まれると落ち着いた気分になるし」
　そう思わないかい？　と言うので「そう思います」と答える綾花は、共通点がまた増えたと思った。

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