駅務員さんのユウウツ｜リアクション

駅務員さんのユウウツ

「ふっ！」

　短い息を切る音とともに、蛇那伊が“シャドウ”に迫り、人体の破壊を目的とした貫手を急所にぶち込む。
　不意打ち。しかも修という人質のような物が居る状態での行動に、“シャドウ”は虚を突かれた。
　物の見事に決まったその一撃で、“シャドウ”は修を取り落とした。

「すまない、助かった」
「気にしなくていいのよ」

　そんなやりとりをしている間に、“シャドウ”がその場から居なくなっていた。
　慌てて辺りを探るが、一足では届かない距離に“シャドウ”がいる事に絶句した。
　蛇那伊はそれでも追いすがるように歩を進める。
　逆に修はその場に足を止め、機を狙うことにした。

　漸く行動の癖が読めた。と、御剣刀は思った。
　修よりもさらに遠く、何とか戦闘区域を視認できる範囲から、刀が修と同じように観察をしていた。

「桜庭、俺が“シャドウ”を抑える。あっちは任せた」
「わかった。そっちの危ない方は任せたよ！」

　桜庭円と刀は本来なら今から二人で遊びに出かけようとしていた所だった。
　たまたま近くで騒動が発生して、こちらの方に駆けつけることになったのだった。
　乱戦状態になっている方へ刀が木刀を抜きつつ一目散にかけだし、円は草壁の元へと向かう。
　幸いなことに“シャドウ”は円に気づいてはおらず簡単に草壁の元にたどり着けた。
　もう幾人か同じように、草壁に向かっていった人が居たが、刀は気にしないことにした。

　今、まともに戦っているのは、多分同年代だと思われる大柄の男――蛇那伊だけのようだ。
　“シャドウ”の背後で修が機を伺っているように見えるが、不用意に近づくべきではないだろうと刀は判断した。
　適度に挑発して攻撃を受け流させればいいだろうと考えた。
　蛇那伊には悪いが、矛先を自身に向けさせるために刀は、

「さあ来い！　あんたの気の済むまで、いくらでも付き合ってやるよ！」

　そう声を張り上げて言った。

『ッタク、サイキンノガキハイセイガヨクテコマルネ』

　ぐるりと関節の動きを無視した動きで“シャドウ”は刀を見た。
　その一瞬の隙に蛇那伊の拳が“シャドウ”の胸に打ち付けられた。それで体がぐらりと揺れ膝をついた。
　誰がどう見ても“シャドウ”は満身創痍だった。
　なぜここまで防御をせずに攻撃一辺倒なのか、疑問に思わなくもない。

『チッ、チョイトイトマヲモラウゼ』

　まただ。似たようなことをさっきも言っていた。
　それがろっこんが消えるトリガーなのかと、刀も蛇那伊も修も勘ぐった。

「逃がすか！」

　言って、振るった刀の木刀は、ノイズ混じりに消える“シャドウ”の残影を切り裂くのみだった。
　そして、間を置かずに同じ場所に現れた“シャドウ”に刀と蛇那伊も目を剥くこととなった。
　とっさの出来事に動けない二人の代わりに、

「この時を待っていた！」

　修がそう言い放ち自身のろっこん【分解】を発動させる。
　必殺の瞬間を狙った一撃。当てられなければ状況が一変、最悪になるのは理解していた。

「待ちなさい！」

　蛇那伊が静止の声を上げるが、修はそれを振り切って右腕を“シャドウ”に伸ばした。
　しかし、“シャドウ”は大きく身を屈ませると、修の腕を回避した腕、足払いをかけた。
　よろめき、そばにあった外壁に手をついた。
　意図せずろっこんが発動し、外壁に小さなクレーターができた。

「やっぱ、おもしれえろっこんだ」

　そこに状況を観察していた空里花が加わった。

「第３ラウンドといこうぜ？」

　まだ戦いは続くのだった。

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