駅務員さんのユウウツ｜リアクション

駅務員さんのユウウツ

――説得――

　明らかに警戒している草壁に、円は平静を装って近づいていく。
　目の前までたどり着いたが、かける言葉を探る。
　円自身、草壁の事はよく知らない。少しだけ困った。

「あの……なぜ、このようなことをしたのですか？」

　レティシア・ル・テリエが、警戒している草壁に言った。
　刀の切り込みと同時にレティシアも草壁の元へと来ていた。
　円もそれに気づいていたので驚きはない。

「ああ、確かにそうさなあ……」

　腕を組みながら、毒島柘榴も同意した。
　この場に居るメンツの中で最年長の柘榴は、草壁がどのような意図で行動を起こしたのか察しはついていたが、本当の理由を草壁本人の口から吐かせたいと思っていた。

「僕はあなたの事は、よく知らない。でも一度見てた限り、そう悪い人だとは思えないんだ。ねえ、何か悩みがあるなら、話を聞くよ？」

　円がそう切り出した。警戒心を露わにする草壁に一番効果的な言葉はこれじゃないかと直感したからだ。
　面識がそんなに深いわけでもないし、普段駅を利用するときに円は草壁を見かけることもあまりなかった。
　それでも客と応対している姿を見かけたことはあったし、真摯に応対している様はどうして、馬鹿にできる訳がなかった。
　そんな円に暗道忍が草壁が語るより先に口を開く。

「誠也さんは、本人が居る前で悪いけれど、どれだけ頑張っても評価されない人だ。
　良いことをしてもすぐに人には忘れ去られ、悪いことばかりずっと覚えられて、ネチネチと嫌みを言われる、そんな人だ」
「お前……俺の事そういう風に見ていたのか」

　正社員とアルバイトの関係にある草壁と忍。
　忍は自分から見た草壁という人物評の触りを話したに過ぎなかった。
　近くで見ていればよく分かる。草壁という人物が如何に貧乏籤を引く人間なのかと言うことを。

「すいません、誠也さん。俺は極力自分が見たままの誠也さんという人物を説明したいです」
「はあ……、気が削がれた。言いたいことあんなら言えばいい。どうせクレームの延長線上だろ。さっさと言えよ」

　投げやりに吐き捨てた草壁に、円とレティシアがずいと身を乗り出した。

「違うよ。さっきも言ったけれど、僕はあなたの敵じゃないし、もし悩みがあるなら聞いてみたいんだ」
「そうです！　あなたを傷つけに来たわけではないですし、怒りに来たわけでもないです！」

　言葉尻がおかしい所もあるが、今草壁の元に居る者達は往々にして、敵意はない。
　ただ、なぜ、草壁がこのような凶行に及ぶことになったのか、その真相が知りたかったのだ。

「話すだけ話して見ろ。ちったあマシになるかもしれんぜ」

　柘榴が草壁の背を軽く叩きながら言った。
　敵意ではなく、年長の立場として、話を聞く態度を見せた。

「俺にも教えてくれ！　どうして、駅員さんがそんなことになったのか！」

　乱戦をくぐり抜けてきた風雲児轟――ザ・ストレイトが言った。
　ストレイトは悔しさに打ち震えていた。
　自身が救えたかもしれない人が、こんな身近にいたのに。
　それよりも気づけない自分の視野の狭さに嘆きそうになった。
　
「ま、小難しく考えるより雑談がてら話して見ろって」

　呵々と笑って柘榴が言った。
　一様に草壁に何があったのかを知りたいという思いだった。
　なぜこのようなことをしてしまうことになったのか。
　それが聞きたかった。
　そんな様子がありありと見て取れた草壁は少しだけ警戒心を緩めた。

「分かった。話してやるよ……」

　観念したように口を開く。

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