【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら｜リアクション

【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら

寝子島神社のクリスマス

　旧市街、参道商店街。
　ちいさなケーキ屋さんのショーウィンドウの前で、ハルキ・イエハナはかれこれ十分ほど迷っていた。

「どれも美味しそうですね。そっちのイチゴの乗ったホールの……
　いや、持ち運びしやすいように、こっちのロールケーキにしようかな」

　選んだのは、フランス語で「クリスマスの丸太」を意味するブッシュドノエル。ロールケーキにチョコクリームを塗って樹木の肌感を演出し、マジパンのサンタさんといちごで飾ったクリスマスらならではケーキだ。ケーキを包んでもらったハルキは、通りの並びの肉屋でローストビーフも買い、さらに、魔女が持つみたいな竹箒も買ってリボンを付けてもらった。
　クリスマスを待つ家族へのプレゼントにしては竹箒はいささか妙だ。
　掃除好きな奥さんが「クリスマスプレゼントにどうしても竹箒が欲しいです」と欲しがったのだろうか。
　いいや、そうではない。ハルキの行き先は自宅ではなく寝子島神社であった。
　
　クリスマスは西洋のお祭りなので、和な神社は関係ない……かと思いきや、今年の寝子島神社は縁日と神楽で賑やかであった。
　ハルキは境内に入る前に、鳥居の前の狛猫たちに手を合わせた。向かって右に『阿』の一之助、左に鎮座するのが『吽』の二右衛門という名であることをハルキは承知していた。彼らはときおり化け猫のような生きた姿になることもあるのだが、普段はこうして石像の狛猫として寝子島神社を守護しているのだ。
「一之助さん、二右衛門さん。お元気でしたか？　なかなか足を運べず申し訳ない」
　ハルキはそう言って、狛猫たちの石の体を撫でる。
「一之助さん、二右衛門さんは変わりないみたいですね。ほっとしました」
　それからケーキの入った袋をちょっと掲げた。
「社務所に新しい竹箒と差し入れ、預けておきますね。あとでお賞味ください。では私は本殿にお参りして、お三夜さまにもご挨拶してまいります」
　狛猫たちに頭を下げ鳥居をくぐったハルキは、境内の喧騒を避けて社務所に寄ると、竹箒とケーキ、ローストビーフを預けた。そのまま人を避けて、裏手から本殿に向かい、お三夜さまにも手を合わせる。
「先日のお祭りのときとその後の体調はどうか気になって来てみました。また、伴侶もともにご挨拶伺います。ご自愛ください」

　夜が更け。
　祭りの喧騒が捌け、静まり返った寝子島神社で、狛猫たちが動き出した。
「お三夜さま」
「お三夜さま」
　本殿奥から赤い瞳をしたちいさな黒猫が顔を出す。
「入れ入れ。ハルキ殿の『ぷれぜんと』にゃ」
　社務所の人々はちゃんと、ケーキとローストビーフを本殿にお供えしてくれていたのだ。
　一之助と二右衛門は、それぞれ、ケーキとローストビーフの包みを咥え大喜びである。
「”けえき”と”ろおすとびーふ”でござる！」
「甘いのと肉でござる！」
　お三夜さまが上手に三等分して、寝子島神社の祭神と狛猫たちは、思いがけぬクリスマスを楽しんだ。