【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人とあやかしと、三つの世界が交わる夜

●寝子島神社：花火

「もうすぐ花火の時間か？」
　猫たちの露店に交じって個展を開いていた旅鴉月詠は、店番猫くんといっしょに露台の上を片付けていた。
「花火が始まる前に片づけてしまおう。……と、売約済みの絵を引き取りに来られたお客さん？　ええ、すぐに包みます。なに、持ち運びの心配は無用」
　月詠は、適当な絵としての記号を描き、＜絵空事＞で『売約済み』の札が貼られていた作品を封印する。
「帰宅したら絵を破るといい。封印した絵が飛び出すから。え？　不思議すぎる？　ふふふ、お三夜まつりの夜の魔法、みたいなものだと思ってくれたまえ」
　客は首を傾げながらも、スケッチブックの切れ端を持ち帰る。
「ん？」
　顔をあげる。
　境内の向こうがにわかに騒がしくなった気がする。
　喜びの声、とでもいうのだろうか。
「事件はあったようだが解決に向かうようでヨシ。私はできる事をするだけだ」
　ひゅう～～～～……っと、風を切って白い光が上空へ上ってゆく。
　いいだけ上ったところで、『パン！』と弾ける。
　百花繚乱の花火の一発目である。
「はじまるか、花火」

◇

　境内の隅では、戻って来たお三夜さまを囲んで、狛猫の一之助と二右衛門がおいおい泣いていた。
「おおお、お三夜さま！　ご無事で何より！」
「お怪我はございませぬか？　お加減は？」

『なんとか無事にゃ。心配かけたにゃあ』

　お三夜さまは、ラッセルや夏夜、瑠樹を振り返る。
「へへっ」
「よかった……」
「ほっとしたよぉ」
　皆、満身創痍だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
　門の役目を果たしていた傾いた鳥居から、霊界に行っていたほかの皆も戻って来た。
　あやかしな者たちはそのまま霊界に残ったようだが、島民はみないる。
　時を合わせたかのように、大輪の花火が夜空に上がった。
　皆、一瞬、花火に気を取られた。
　気づけば傾いた鳥居は消えていた。
　お三夜さまは改めて皆に頭を下げた。
『此度も助けてくれてありがとうにゃ』
　どろでろろや滴のことは気になるけれど。
　お三夜さまを助け出すことができた。
　祭りの花火はどおん、どおんと盛大に上がり、皆の顔を照らしている。

「夏夜ちゃん」
「夏朝」
　再会した夏朝と夏夜はしずかに抱き合う。
「花火があがった……」
「一安心だね」
「来年こそは平穏に楽しみたいね」
「うん。僕等も……そして、黒白さんも……」
「その前に……黒白さんを助け出さないと、だね」
　夏朝と夏夜は、ひたいとひたいを合わせる。
　同じ願いを、花火に祈る。

このページにイラストを設定する