クリスマスカラーには意味がある。
　緑には『永遠』、赤なら『愛』といったように、形あるオーナメントでなくとも、たくさんの思いが込められている……ということを、気にする人はどれほどいるだろうか。

　熱く、強い思いを。前向きな元気を。
　情熱の赤い薔薇と呼ぶように、率直な想いを伝える手段として、これ以上ないほど愛を表すのに相応しい赤。
　けれど、クリスマスの赤は『血の色』が由来とされている。
　そこに込められているのは、紛れもなく尊い愛だけれど、身の回りにある赤は何を伝えているだろう。

　赤には明るい意味だけがあるのではない。
　信号も、遮断機も、目を引くその色に込められたのは、『警告』なのだ。



　その年によってアレンジがかかったりするけれど、変わらない楽曲。
　シャンシャンと鈴の音が混ざり、心を跳ねさせるリズムを刻むクリスマスソングは、12月に入った頃から街中で流れていた。
　誰も彼もが楽しみにし、浮かれるはずの街の片隅で。ふと、七夜 あおいは足を止める。
（クリスマス……）
　みんなで集まって騒ぐ口実にはぴったりなイベント。
　期末テストも終わって、冬休みが始まって。しかも推薦で進学も決まっているなら遊ぶしかない。
　一般入試の人には追い込み時期となるから、みんなで集まってともいかないけれど、少しおやつ休憩をするくらいなら時間がとれる友達もいるかもしれない。

「……うん、ほら。冬はね、体温の保温が必要だから！」
　練習しているクリスマス料理がある。
　気になる期間限定のお菓子がある。
　そして、ちょっぴり……太腿周りが、もしかしたらなぁ、なんて。
（大丈夫だよね、体重は変わってなかったし）
　冬服のスカートを引っ張り出したときに、少し引っかかりを覚えた。その時は久しぶりに履くからかなと気にしないことにしたけれど、寒い日はパンツスタイルもいいなと着替えて――やっぱり、なんとなく。

　認めたくない。でも、このままでは。
　視界に入ったサンタクロースが、なんだか手招きしているように見えて、思わずあおいは目を背ける。
　そこには丁度、クリスマスイベントのお知らせがあった。

　僅かな明かりを頼りに洞窟内を歩き回って探検したり、神社でダンスを行ったり。
　クリスマスの雰囲気を壊さず、楽しみながら気になる対策も出来るのは、今のあおいには革新的だった。
　外の催しでこれなのだ。どこかで集まってパーティすることになったとしても、怖くないかもしれない。
「楽しいダイエットと美味しいは両立できる！」
　あおいは不敵な笑みを浮かべると、クリスマスソングに合わせて歩き始めた。





　こぢんまりした居酒屋の奥。
　掘りごたつでじんわりと暖を取りながら、ウォルター・Bはにこやかにビールジョッキを掲げた。
「期末テスト、お疲れさまで～す」
　その音頭に合わせて、おどおどとウーロン茶のグラスを掲げる五十嵐 尚輝。そして隣には早川 珪。
　正直ここにいる誰もが、どうして集まったのか、よくわからないまま乾杯をしていた。
「で、なんでしたっけ。五十嵐先生が通知表を捌ききれなくてどうしようって話？」
「ちっ違います、終わっていませんけど間に合います……」
　生徒達がテストに解放されたと、一足早く冬休み気分でいる頃。教師達は採点や冬休み用の課題の準備に追われている。そんな中で、一区切りついたのなら飲みに行きたいという声が上がった。
　どうせ忘年会だ何だと飲み会を入れられるこの時期に、さらに別用でプライベートな時間を潰されたくない。

　だから、この三人は逃げてきたのだ。

　適当な理由を言う誰かに巻き込まれて、それに話を合わせるために誰かを巻き込んで。
　気付けばこうして居酒屋に居るわけだけれど、たまにはそれもいいかと珪はハイボールに口をつけて――。

「じゃあ、クリスマスをどう過ごすか、って話でしたっけ」
　むせそうになった。
　決定的瞬間を見かけたわけではないが、それなりに「おや」と思う場面を互いに知っている。それだけに、この手の話題は絶対に避けると思っていたのに。
　繰り出したウォルターは、平然とビールを煽っている。聞き返されても問題ない、ということだろうか。
　下手にやぶ蛇とならぬよう、ひとまず珪は、何でも無いことのように振る舞った。
「お二人は家族と？」
　独身男性が雁首揃えて、浮ついた話が出ないのも不自然ではある。が、「実家が遠いので顔を出すのは年明けかな」なんて濁しておけば、ひとまずクリスマスの話題からは脱出できる……はずだと踏んだ。
　しかし、そういう切り返しが苦手な尚輝は、馬鹿正直にダラダラと冷や汗をかきながらグラスを握りしめていた。

「僕は、その……ええ、なんというか」
「あ、誰と過ごすかまでは言わなくていいですよぉ。止めなきゃいけなくなるんで」
　ケラケラと笑っているウォルターは、スマートフォンをテーブルの中央に置くと、クリスマスのイベント特集のページを開いた。
　寝子島の中だけに限っても、至る所で催し物がある。小さな子連れから、賑やかな物が苦手な人まで、場所ごとに趣向を凝らしたそのどれもが賑わうのだろう。
　その中で、珪は気になる一文を見かけた。

―― ＜キスしてサンタさん＞『突撃☆出張版』 ――
　例年であれば、ネコジマスクエアだけで行われていたイベント。
　それが今年はなんと、寝子島各地で行われるらしい。
　【イルミネーションあるところ、取材陣あり】とだけあって、どこに潜んでいるかの詳細は書かれていない。

「……………………まあ、いっか」
　一番閉口しそうな珪が、意外な言葉を小さく呟いた。
　居酒屋の賑わいで消えてしまいそうなほどではあるけれど、それは小さな端末を覗き込んでいたウォルターと尚輝の耳にも、しっかり届いていたらしい。
「え、だ……えっ？」
　顔を真っ赤にして狼狽える尚輝を揶揄って、ウォルターはスマホの画面を拡大する。そうやってようやく読めるほど小さく、『強制ではなく任意です』と書かれていた。
　珪はそれをちらりと確認だけして、また平然とハイボールに口をつける。
「じゃあ僕は、知らなかったってことにしますねぇ」
　画面を元に戻し、他のイベントはないかなと適当にスクロールさせて。ようやっと配膳されてきたおつまみを受け取るついでにお代わりを頼み、話題は次第にクリスマスからくだらない世間話へと変わった。



　共に過ごしたい人がいる。
　聖なる日に、目映いばかりの幸せに包んであげたいと思う大切な人が。
　口にするのが全てではないけれど。態度に出そうにも、躊躇ってしまうことがあるけれど。

　確かに胸の内では――激情が渦巻いていると、伝える覚悟をしてみようか。
　クリスマスイブの『赤』は、君に何を知らせるだろう？

担当ゲームマスター

浅野 悠希

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

上手に甘えたつもりで不憫なほど遇われてくれ

キャラクターの目的・理由

怖いって思うから怖いんだ

キャラクターの行動・手段

【Ａ】
洞窟デートに誘われて、なんの嫌がらせかと思ったら、結構まともな飾り付けじゃん？
昼夜関係なくイルミネーションを見られるのは悪くないな。

オーナメントクッキーを買ったり、ノンアルコールのグリューワインを飲んで温まって。
一通り見て回ったら、次は何処に……え？　洞窟の奥に行く？

いや、そっちは立ち入り禁止……じゃないのか。そんなに暗いのに。
スマホで灯りは……ダメ？　その心許ない提灯みたいなやつだけ？


うーん。まあルートを外れるわけじゃないなら、危ないことも無いだろうし。
（でも水音や靴音が響いて、結構怖い）
これ、宝探し的なやつなんだよな？　じゃあとっとと探して、外に出るぞ。

……お願いだから走らないでください。灯りはペアで１個しかないんです！
置いて行かれたら困っ、怖くねーよ！　あ、嘘です。怖いです。

だから、手ぇ繋いでくれると嬉しいんだけどな～？