【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら｜リアクション

【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら

サンタさんとクリぼっちな生き霊たち・その２

「晴月！」
　ラッセルは咄嗟に晴月を守る。直後、彼らを強烈な衝撃波が襲う。
　生き霊たちの逆恨みパワーはすさまじかった。
「うっ、このプレッシャーは」
「あぶない！」
　道哉ときなこはさすがあやかしだけあって、放たれた霊圧の衝撃波から素早くのがれたが、信彦と慶介はもろに喰らって屋上の端まで吹き飛ばされた。
「りぃとりぃぃぃぃ」
　生き霊の中に恨みがましく莉鳥の名を呼ぶものがある。莉鳥によく似た顔だちの霊だ。ショートカットで、寝子高の制服を着ていて……だが、その目は見開かれ、白目も黒目もなく真っ赤に光っている。

「あれってまさか……私の生き霊？」

　――ねえ、本当はカレが戻ってくるって思ってない？　クールな振りして自分の心は開かなかったくせに、最後にカレが戻ってくるのは自分のところだって自信だけはあったんじゃない？
　莉鳥の生き霊は執拗に元カレのことで責め立ててくる。
「そんなわけ」
　ない、と言いかけた言葉は、生き霊の激しい嘲笑にかき消される。
　――アハハ、お生憎様！　カレは今ごろ、今カノとベッドの中よ！
　粘つく生き霊たちの繰り言を断ち切ったのは、ヴィーゼ・ベルンスタインの声であった。

「そこまでよ！」

　空から投擲された真紅の槍が、夜の冷えた大気を切り裂き、サンタと生き霊を分断する様に屋上に突き刺さる。追って、ヴィーゼ自身もサンタの前に着地した。
「迷える生き霊たちよ、止まって。ぼっちが悲しいのは理解できるけれど、プレゼントを配るサンタやトナカイ達を邪魔する理由にはならない筈よ」
　生き霊は降って沸いたヴィーゼに狙いを定め、襲い掛かってくる。
　血液を操るヴィーゼは、血の槍で応戦する。向こうも向こうで可哀想だから、できるだけ直接当てない様にして警告だけで――と思っていたのだが、生き霊たちの猛攻すさまじく、手加減してはさばききれない。
「もう……ちょっとやりすぎよ」
　ヴィーゼは槍を一振りして間合いをつくると、血液を弾丸の様に撃ち放って生霊たちを散り散りにさせた。
「一つ一つは大したことないけど、これだけ集まると厄介ね……空気まで重くなってくるし……ここは上手く説得して、生き霊同士が力を合わせるのを妨害する必要がありそうね」
　そのとおりだ、とラッセルが立ち上がる。
「俺でよければ話の一つでも聞いてやるから落ち着けよ。生きてりゃいいこともあるさ」
　――アァ！？
　生き霊たちはちゅどーんとラッセルを吹き飛ばす。
「ラッセル！」
　びっくりした晴月がラッセルの名を呼ぶ。
　――女の子が心配してくれるだと！？
　だめだ！　女子連れでは説得できない！
　生き霊たちの心は逆撫でされまくっている！
　続いて、信彦のターン！

「ジェラしい炎（＝嫉妬の炎）に身を焦がす浮遊霊の諸君、俺の話を聞いてほしい！」

　ちゅどーん！！
　信彦も吹っ飛んだ。
　『ジェラしい炎に身を焦がす』はなかなかいいワードだったのだが。
　キラキラが眩しいんだよ！　と余計生き霊たちの嫉妬を買ってしまった！
　信彦もクリぼっちなのに、ちょっとかわいそうである。

　ゴゴゴゴゴ……
　
　どす黒い炎（比喩表現）を背中から立ち上らせて身を起こしたのは、自分の生き霊に元カレと今カノの現在をねちこく耳元で実況中継されていた莉鳥である。
「あいつ……手が早いのは相変わらずね」
　莉鳥はぼそっと呟く。
　腹の底まで冷えるような冷酷な声。
　コワイ。
　カッとなって怒鳴る人より怒ってます、これ。
「……私って、こんなに未練がましかった？　何だか情けないわ……」
　そう言いつつ莉鳥は──静かにキレた。
「で、元カレが今カノとセックスしているからって何なの？」
　人差し指をすっと伸ばすと、莉鳥は自身のろっこん＜スタンハンド＞を最大出力で放つ。
　強烈な電気の筋が、びりびりと光って宙を走る。
　莉鳥は自分の生き霊をしばくと、さらにほかの生き霊たちも容赦なくしばき倒そうとした。
　そのときである。
　混沌の戦場と化そうとしていた屋上に、澄んだヴァイオリンの音が響き渡ったのは。