Ｊｕｎｏの花嫁｜リアクション

Ｊｕｎｏの花嫁

【蔦薔薇の館で、薔薇とともに】

　午後には雨もあがり、張り切るスタッフが撮影場所をいったん蔦薔薇の館に移した。

　蔦薔薇の館の庭園で撮影するゼシカ・ホーエンハイムと十文字若菜に、八神修がインタビューを始める。
「お二人とも、今日はなぜ参加を？」
「私は、シスターゼシカに誘ってもらったの。シスターのドレス姿がとっても楽しみだったんだけど、予想以上に素敵！　すっごく綺麗！」
　目を輝かせてシスターの晴れ姿を褒める若菜に、修もうなずいた。
「ええ、よくお似合いですね」
　ゼシカが身につけているのは、ビジューを裾襞に織り込んでロマンチックに仕立てた、プリンセスラインのウェディングドレスだった。
　胸元には白薔薇のコサージュがついている。
「若菜さんも、爽やかで凛々しくて、本物の貴公子みたいですわよ」
　はにかんで、ゼシカはそっと胸を押さえた。
　ゼシカと並んで歩く若菜は、チャコールグレーのロングタキシードを借りていた。
　普段はサイドテールの黒髪も、今日は後ろでひとつに結ってある。
「シスターは、スタッフから直々にモデルの依頼があったそうですね」
「ええ、恥ずかしいのですけど、実はウェディングドレスに憧れておりましたの」
　修は庭園を見回して、ゼシカに訊ねた。
「よく手入れがされていますね。あの館は下宿も受け入れているそうですが？」
「元は、外交官夫妻の別邸だったんです」
　館のいわれをゼシカは語り、修は熱心にメモをとった。
「なるほど、ありがとうございます」
「庭園の薔薇も見頃ですから、ぜひご覧になっていってくださいね」

　若菜のエスコートで、ゼシカは蔦薔薇のアーチの下を、しずしずと進んでいった。
　雨もすっかりあがり、湿気をはらんだ空気が薔薇の香りを運んでくる。
「わぁ、素敵なアーチ！　それになんだか、いい香りがしますね！」
「こうして歩いていると、ヴァージンロードのようですわね。蔦薔薇は、小ぶりだけれど可愛らしいでしょう？」
「薔薇のアーチがシスターの雰囲気にぴったりですね～。うっとりしちゃうくらい素敵です！」
「まあ、ありがとうございます。若菜さんも、見とれてしまうほどに素敵ですわ……」
　ゼシカと若菜は互いの顔を見つめて、微笑みを交わした。
「こうして見ると、薔薇にも色々な種類があるんだってわかりますよね」
「ええ、これはスカーレット・クイーン・エリザベス。向こうは紅玉ですね」
「紅玉？　林檎みたい！」
「形も丸くてかわいいでしょう？」
「本当ですね。ねえシスター、向こうの白い薔薇は？」
「あれはアルバメイディランドという薔薇ですよ」
「アルバ……メイ……、なんだか舌を噛みそう」
　口をもごもごさせる若菜を見て、ゼシカはくすくすと笑った。

　二人は薔薇に囲まれる一画で撮影を行った。
「この角度だと、雨粒が輝いてきれいに撮れると思う」
　雨上がりを活かした撮影スポットを探していたらしい御剣刀の、おすすめの一画だ。
　刀と勇がレフ板を傾けると、ゼシカと若菜の後ろで、薔薇がキラキラと輝きを増した。
「へえ、綺麗だな」
　修も次々とシャッターを押していく。

「もう少し寄り添って、そうです。自然な笑顔でお願いしまーす」
　撮影スタッフに指示されてポーズをとりながらも、ゼシカの顔はこわばっていた。
「ごめんなさい……、どうしても緊張してしまって」
　頬を抑えるゼシカの肩に、若菜が手を添えた。
「大丈夫、さっき薔薇の説明をしてくれたときは、自然に笑っていましたよ。ほら、思い出してみて」
「薔薇の話、ですか？」
　アルバメイディランドを若菜と一緒に見たときのことを思い出し、ゼシカは微笑んだ。
「シスターゼシカ、本当に綺麗！　憧れちゃうくらい素敵！」
　笑顔の二人を、カメラがとらえた。