Ｊｕｎｏの花嫁｜リアクション

Ｊｕｎｏの花嫁

【薔薇とドレスとヴァイオリン】

「あれ？　何の撮影だろう？」
　ヴァイオリンを持って蔓薔薇の館を訪れた結城日和が、スタッフの行き交う光景にとまどいの声をもらした。
「どうした？　撮影のモデルなら、教会に着替えが用意してあるぞ」
　撮影に使用した花束を運んでいた勇が、日和に気づいて教会を指さした。
「ううん、ヴァイオリンを弾きに来たんだけど……えっと、今日はここで何があるの？」
「ああ、雑誌のウェディング特集の撮影をしているんだ」
　勇が詳細を説明すると、日和はそわそわしだした。
「６月の花嫁は幸せになれるっていうもんね～。いいなぁ、ウェディングドレス……。ねえ、当日の参加も受け付けてるのかなぁ？」
「ああ。教会に行って、編集部の人に声をかけてみるといい」
「ありがとう！」
　カップルの姿が目立つことに気後れしながらも、日和はスタッフを見つけて声をかけた。
「すみません！　私もモデルがしてみたいです！」
「ありがたい、やる気のある人は大歓迎だよ！」
　そんなふうに迎え入れられて、日和はさっそく衣装の並ぶ控え室へと連れていかれた。
「わあ、素敵なドレスがたくさんあるよ～！」
　夢のようなドレスがたくさんで、目移りしてしまう。
「これもかわいいし、こっちも着てみたいし……」
「悩んでいるなら、手伝おうか？」
　月詠の申し出に日和は飛びついた。
「ありがとう、ぜひ！」
「どんなのがご希望かな？　もしくは、花嫁に対する漠然としたイメージとかでも構わないけれど」
「ええっと～」
　恋をした経験もない日和には、結婚なんて夢のまた夢だ。
　どんなドレスが自分に似合うのか、明確なビジョンも伝えられない。
「ウェディングドレスって、白くてふわふわしてて、花嫁さんを女神様みたいにしてくれるなぁって、私思っているの」
「なるほど。ではそういうテイストでまとめてみよう」
　なんとも頼もしい、月詠の返答だった。

　月詠にまず写真を撮られて、その後、一緒にドレスを選んだ。
　試着室も一緒に入って、あちこちに詰め物をしたり、絞ったり、最も美しくラインがでるよう調節もしてくれた。
「全体的に柔らかくてロマンティックな印象だから、メイクもなるべく薄くするよ」
　メイクルームで髪もセットしてもらい、完成した姿を鏡で見たら、自然とため息がもれた。
「うわぁ……！」
「どうかな、綺麗に仕上がっただろう」
「すごい！　ありがとう！！」
　うっとりとする日和を、ふたたび月詠がカメラにおさめる。
　ビフォーとアフターの写真は後日渡すという月詠に、日和はくり返しお礼を言った。

　日和の撮影のパートナーは、『自称・薔薇が似合うハンサムボーイ』の八十八旗信彦が名乗り出て、二人で薔薇の咲き誇る庭園で楽しく写真を撮ってもらった。
「ドレスの綺麗なドレープに、俺のハートも波打ちそうだよ。罪深いね、せにょりーた」
「ありがとう～。本当に素敵なドレスだよねぇ」
「おっと、そのまぶしい笑顔に、目がくらむよ！」