スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　「……？　何故ですか、逃亡したら捕獲する。これは当たり前の事です」
　「ペン太郎が逃げ出したのには理由があると思うんだ。理由をはっきりしなければ、ペン太郎はまた脱走して根本的な解決にはならない。…違うか？」
　優しく諭す八神修に、常闇月は今までに無い考え方に困惑を露にしつつも頷いた。
　「……はい。そうおっしゃるのでしたら。
　では、目標捕捉時のご命令をお願い致します」

　その様子を、響タルトがそのやり取りを興味本位で目にしている。
　確かにこれは、一見でなくとも同じ学生同士でのやり取りとは思い難い。
　「真央ちゃん……二人って『こういう』関係かな？
　ＮＬ(男女同士の健全な恋愛)でこういうちょっとマニアックなのってのって創作意欲かき立てられるっていうか……！？」
　「修ちゃんはそんな子じゃないのだ！　これにはきっと海よりも深く山よりも高い事情が……！」
　「二人ともっ、誤解を招くような事を言うんじゃないっ！　俺と常闇の関係は全てにおいて健全だ！」
　「ちぇーっ」
　「真央ちゃん安心したのだ！　修ちゃんが、ついに眼鏡が無くても鬼畜めがねモードに入ってしまったんじゃないかと！」
　「後木……その、鬼畜めがねモードに入ったら実行しかねないという考えは捨ててみないか……？」　
　「嘘は言っていないのだ！」

　えっへんと胸を張る後木真央。
　その二人のやり取りを月がほんの少し孤独を交えた羨ましそうな表情で見つめて。
　それに気付いた修が羨ましそうなその様子に小さく笑って応えた。
　「流石に、指示とか命じるとか難易度高すぎるだろ。友達だろ」
　
　「……………」

　しばし、月はその言葉の意味について考えてみた。
　しかし、意味は良く分からない。
　小さく首をかしげ、きょとんとした様子を隠そうともしない様子の中──ただ、それにそこはかとなく感じた事のない温かさを感じた。

　月は空を見上げて、決意するように告げる。
　「それでは私は、氷の原因を追い掛けます。何かあり次第、そちらの方へ連絡を」
　「ああ、足元気をつけてな」
　心なしいつもより優しい笑みを浮かべて相手を見送る。
　月は小さく頷き、その身体能力を持って塀を軽々と飛び越え、店々の屋根伝いに走り抜けていった。

　残ったのは、アイススパイクをつけた自転車と修、タルト、そして真央の三人。
　「修ちゃんは頭脳派もやしっ子だから、二人乗りしてもこげないのだ！　ここは真央が修ちゃんを後ろに乗せて走るのだ！　普段の恩返しなのだ！！」
　修は言葉に詰まった。本来ならば、男が自転車をこいでしかるべきである。
　しかし、肝心の修にはその体力が無い。ましてや二人乗りなど不可能だ。
　「あ！　もしかして例のペンギンのところに行く？　僕も行きたい！」
　タルトが目を輝かせて声を上げる。
　「──とは言え、この自転車、警察に注意されなくてもぎりぎり乗れて二人みたいだが」
　修が少し悩んでからタルトに告げる。

　「ああっ、だったらこうすればいいよ～っ」
　タルトがそう告げるや否や、氷の冷気でぬるい水と化したバケツの水を自分から頭に被った！
　タルトのろっこん発動！

　【発動条件】
　体が水に浸かると発動する。
　【能力】
　猫に変身する。服ごと変身し、人間に戻っても服を着ている。

　「ニャーっ」
　水が流れたその後には、見事に一匹の猫に変身したタルトがいた。
　バランスよく自転車のサドルに飛び乗り、そこから自転車の前籠の部分にちょんと収まる。
　「おおっ、これならタルトちゃんも運搬できるのだ！」
　「うん、これなら問題ないな。──それじゃあ行くか」
　実際にペダルをこぐのは真央であったが、その後に座った修は、余り格好良いとは言えない事実に肩を落としながら、出発の掛け声をかけた。　