スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【常春少年と氷の受難】

　「……わふっ！」
　猫鳴館からキャットロードの本屋へ繋がる道。そこで少年真辺伸幸は見事に滑った。
　最初はお約束としてバナナの皮でも踏んづけたのかとも思ったが、そうでもないらしい。
　足元を見れば、つややかな氷がキャットロード一面に広がっている。
　何度見直してみても、きらきらした氷の輝きが消える事はない。

　「やあ、季節外れの氷ー…」
　呟いた伸幸は、今までの経験からこの現象が、すぐに神魂やろっこんの影響である可能性を思い起した。
　しかし『安全第一』──そう思い、一瞬放置して引き返すなどの手段も思い至ったが、放置をした後の結果などを考えると、これは若干危険過ぎる。

　「どこかにお湯とかあればいいんだけれどー…」
　辺りを見渡すが、季節もさることながら立地上でも、雪も降っていないのに一夜にして道全面に氷が張るとは明らかな異常事態である。もちろん氷結に対処する施設もなければ、あまりの突然のことに人力での対処もままならない。
　しかし、ふと見れば、遠くでお店の人が氷を溶かそうとお湯を掛けているのが見て取れた。お店の人に言えば氷を溶かすのを手伝わせてもらえるかも知れない。

　何しろこの状況下である。また氷に足を取られそうな自分が危ない。
　放置したら誰より何より、ぼんやりしてまた同じ場所に足を踏み出しかねない自分が、一番危ない。

　「ひとまず、氷を溶かしているお店まで……ぬっ？」
　伸幸はお店の方へ足を踏み出そうとして、再びつるんっ。

　「…ぬぬっ！」
　思い切り氷に足を取られて、転ぶ──と覚悟した瞬間。
　その足は滑らかな氷の上を絶妙なバランスで滑っている事に気がついた。

　「……ぬ？」
　転びそうで転ばない、片足だけでは当然もたず、転ぶのを覚悟でもう片方の足をつければ、不安定ながらもついついと氷の上を滑っていく。
　「俺バランス感覚すっごくいい……！」
　思わず間延びしない言葉で、自分で自分に感動してみた。
　これは新しい体験だ。
　ちなみに彼の今の思考はこんな感じである。

　『だって今転びそうで転ばないまま立ったまま氷の上つるーんと滑りなう』
　そんな若干の思考混乱の足音が聞こえる中、伸幸はふとある事に気付く。

　「誰でもいいから止めて欲しいと言うか思ったより氷の幅広いし先も長いなんたる……！」

　そう、氷の道は先が見えない位まで延びている。しかもうかつに動けば、
　『やあ、だって下手に動くと顔面からびたーんって行って大惨事の気がしてそぉい！なのよー！！』
　……心の声は更なる混乱を伴って伸幸の元を訪れていた。
　これでは、いつものほんわかも命の危険と隣りあわせだ！

　しかし、そんな彼に転機が見えた。
　キャットロードの合間、氷の無い部分が存在したのだ。
　これで止まれる……！

　──しかし、今まで氷に滑るのを任せてきたという事は……
　
　ガッ！！

　氷が無くなるという事は滑らなくなるということ。
　慣性に任せ、スピードに乗りに乗ってしまっていた彼は、足をつんのめらせ、その瞬間、確かに空を飛んだ。

　そして、その原因を作った──中村優子の『作品名：ニャグダラのマリア』調ペンギンの柔らかに広げる腕の中にダイブ。
　「……ぬー…氷は固くて痛いけれども、いいフィット感……きゅう」
　こうして、氷の腕の中で沈黙した伸幸は、翌日見事に風邪を引き、今度こそきちんとフィットした暖かい布団で休む事に成功した羽目となったのである……
　

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