闇ありて棲み処は澱む＜２＞｜リアクション

闇ありて棲み処は澱む＜２＞

●ふたつめの分かれ道

　そのころ右の道へと進んだ一行は、暗くてうねる先の見えない一本道を抜けて、次の分かれ道まで来ていた。
　道は上りと下りに分かれていて、上る方の道が下る方よりやや広い。
　壁に手を当てて＜アーキテクト・アナリシス＞を発動させたマリエッタが、
「下への道の方が先まで続いていそう」
　と告げる。それでも念のため、後続の仲間を待って上の道も探索しようということで話がまとまる。

　左の道へ行った者たちが追い付いてくるまで数十分かかったろうか。
　前の分れ道と同じように、上の道を調べる者と下の道を調べる者に分かれる。
　パンダと夏夜は正気には戻ったものの、もう少し休んだ方が良さそうなので、茂と豪をボディガードとしてこの分かれ道で待つことにする。
　ハズレの可能性が高い上の道の探索を買って出たのは、マリエッタ・学・紫・真白・道哉・きなこであった。

「って、やっぱりこうなるよね～～～」
　上の道を進んだ先で、群れて襲い掛かってきたヌシの使いに囲まれて、学は「物理効く～物理効く～」と念仏みたいに唱えながら、モグラ叩きでもするかのように鉄梃を振るう。
「ええい、やあ！」
　真白も硬化した折り畳み傘を戦棍よろしく振り回す。

「上のマンションでは私がちょっとアレな所見せちゃったけど一回経験したからもう大丈夫！　蛇でもなんでもかかってこーい！」
　言葉通り、真白は正気も正気で無双していく。
　一方、紫は履いていた蹄のような靴を躊躇わず脱ぎ、片手に持った。尖った踵部分は鉄梃代りになる。振りかぶり、刀でも鍛えているかのように黒い蛇体へ打ち付ける。もちろん打撃を受けた蛇体はひとたまりもない。かと思うと、趾で尾を踏みつけて矛で付いたり、小さい個体ならそのまま踏みつぶしたりと容赦がない。
　そのとき天井の割れ目から落ちてきたヌシの使いの一匹が、道哉の首に巻き付かんと身をくねらせるのが目の端に映った。
「道哉！」
「そう易々とやられはしないよ」
　道哉は二又の猫に変化して逃れる。絡みつこうとして空を切った蛇の鎌首は、紫の裸足になった足の指によって捩じるように摘まみ上げられた。
「こう見えて足癖は悪い方でね。蛇の類なら掴めるよ」
　振り回して壁に投げつける紫を横目に、道哉はきなこの傍まで逃れて人に戻った。
「やれやれ……ヌシの使いとやらはキリがないのと話が通じないのが困る。きなこ平気か？」
「はいっ。わたし、ゆうれいなのでっ」
「それはよかった。気づいたことがあったら言ってくれ」
　きなこは戦いの上空にふわりと浮いてあたりを見回す。
「においはつよくなってきたけど　へやのまんなかだけ　きよらかなかんじ……あっ、なにかおちてる」
　道哉はきなこが指さした方を見た。部屋の中央に棒のようなものが落ちている。
「取ってくるわ」
　マリエッタがハンマーを振り回してヌシの使いを打ち払い、落ちていた棒きれを拾い上げる。と、それはポロリと真ん中から直角に曲がって床に落ちた。
「わ、私じゃないわ。最初から折れてたのよ」
　古いものだ。傷んだ棒切れをそれ以上吟味する暇はなかった。マリエッタは落ちた半分も拾い上げると仲間の元に取って返してきた。いったいどこから現れるのか、ヌシの使いは倒したと思っても闇の中から次々と現れるのだ。
「そいつのほかに目ぼしいものはなさそうだ。戻るよ！」
　紫が撤退を伝えた。