「
Y」という名のそのマンションは、寝子島と霊界にまたがるようにして存在していた。
寝子島の側ではシーサイドタウンと星ヶ丘の境のあたりにある廃虚となったマンションで、10年ほど前から幽霊が出ると噂になっていた。何年か前に大学生グループが肝試しに来て女の子が死んだとかで敷地を囲むように立ち入り禁止の鎖が掛けられている。しかし抜け穴はあるもので、今も興味本位に立ち入る者が後を絶たない。
その幽霊マンションが霊界の側にも顕現したのは春のこと。
寝子島と霊界がより密接に繋がってしまってからだ。
「寝子島世界で起こることの多くは何らかのかたちで霊界に影響を与える……
そんなの昔っからじゃないか。いまさら何が気になるっていうんだい」
霊界。
鏨 紫は聳え立つ五角形の建物を見上げ、
餅々 きなこに問いかける。
「そうなんだけど……紫ちゃんもわかるでしょ?
『におう』の。まえはわからなかったけど、だんだんつよくなってる。
わたし、しってるの、このにおい……すごく、すごく、イヤなにおいで、くるしい」
いつもは明るいきなこが、眉をしかめている。
見た目は6才、実際には690年以上幽霊をやっているきなこはこのあたりの古株で、寝子島の幽霊たちの顔役だ。紫のほうはそれよりは数十才若いが、やはり600年以上生きた鬼である。きなこの言う『におい』には薄々気づいていた。
「やれやれ。面倒だから気づかないふりをしていたかったんだけど。きなこさんが『知って』て、しかも『苦しい』ってのが気になるな……もしかして、あなたが幽霊になった理由と関係あったりするのかい」
きなこは神妙な面持ちで頷いた。
「わたしがしんだとき……このにおいがした……」
「なるほど……それで。どうしたいのさ」
「このにおいのヌシはなんなのか、しらべるの、てつだって」
「調べてどうする」
「……」
「自分の仇討ちかい」
「……わかんない。しりたいだけかもしれない。あのとき、ほんとうはなにがあったのか」
「覚えてないのか」
「しんだときのきおくは、おぼろげなの」
「そう言うやつは多い。死に際つらかったんだろうな。忘れたいくらいに」
きなこが幽霊になったのは紫が生まれる前だ。
きなこの生い立ちも、きなこがどうして幼くして幽霊になったのかも、紫は知らない。
「マンションってのはここ数十年の間に出来たと思ったが、きなこさんに関係があるものなのかね」
「だからこそしらべたいの。こんなにあたらしいたてものから、ふるいにおいがするのがいやなかんじなの」
たしかにそうだった。
埃と腐った水がまじりあったようなにおいは、なにか古きものを思わせる。
「わかった。仲間も必要だね。募ろう。それと――」
紫はマンションYの玄関前に倒れているふたりの青年に目を向けた。
「あれはどうする?」
それは、マタ大生MewTuberの
笹川 帆太と、
最近その配信に付き合うことの多い海原 茂であった。
「ううーん……ここは?」
先に帆太が目を覚ました。
起き上がるなり手にしたスマホに目をやって「圏外?」と騒いでいる。
「こんなところに迷い込んで。なにしてる、人間」
「なにって、パンダとウナウナの幽霊マンション探検っていう配信で……ひゃあっ! お、鬼ーーーっ!?」
帆太は紫の姿をみて飛び上がらんばかりに驚いている。
帆太の叫び声の茂も目を覚ました。
茂は元寝子高生で、雷を繰り出すろっこんの持ち主ということもあり、こういう異変には慣れっこで、今いる場所が現実の寝子島とは違うと気づいたらしい。
ひとの帆太に対してそれとなく誤魔化す。
「パンダは島外出身だから知らないかもしれないが、寝子島ではよくあるんだ。
現実みたいに感じる超リアルな夢を見ること」
「へ? これ夢なの、ウナウナ」
「夢だ。俺たち同じ夢を見てるんだ」
真顔で言い切る茂の言葉を、帆太は素直に信じたらしい。
「へーっ、すごいじゃん! 残念、夢かあ。鬼とか幽霊とか配信したかったー。で、この夢いつ醒めるの?」
「それは……」
茂は、両手を組んで懇願するようなきなこの姿を捉えて、なんとなく事情を察する。
「あの幽霊さんの願いを叶えたら、かな」
その後、幽霊マンション「Y」の前には紫の招集できなこの力になりたいと集ったあやかしたちや、偶然幽霊マンションの傍にいた者、パンダたちの配信を見ているうちに引き込まれた者などが集結した。
きなこから事情を聞いた一同は、揃ってマンション「Y」の門を潜っていく。
なお、「Y」とは偽名だがお許しいただきたい。
知ってしまうとあなたに危害が及ばぬとも限らないから。
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
鏨 紫さん、ガイドにご登場いただきありがとうございます!
笈地初の霊界シナリオになります。
きなこちゃんの過去や『におう』ヤツを追って
調査したりバトルしたりするような2~3回のシリーズものとなる予定です。
寝子島の方も、あやかしの方も、ほしびとの方も、奮ってご参加くださいませ。
幽霊マンション『Y』について
幽霊マンション『Y』は、五角形の形をした四階建てのマンションです。
10年ほど前から廃墟で、電気は通っていません。(携帯は起動できますが、霊界なので圏外です)
<調査できる主な場所>※PL情報となります。
1階 管理人室 : はじめから開いている。あらかた片付けられているが何か残っているかも。
1階 104号室 : はじめから開いている。首にひも状のものを巻いて死んだ男の幽霊が出る。
部屋に入ると男の幽霊は襲ってくる。
2階 物置 : はじめから開いている。梯子や工具など共有の道具が置いてあるはず。
3階 302号室 : はじめから開いている。
肝試しに来た大学生グループの中の女子が死んだといわれる部屋。
若い女の幽霊が出る。部屋に入ると女の幽霊は奥の窓辺で泣いている。
4階 廊下 : 床に無数の黒い蛇のようなものがのたくっており、襲ってくる。
4階 404号室 : 鍵が閉まっている。
父母子二人の四人家族だったが一家惨殺されたとされる部屋。
ほかの部屋より濃くて嫌な気配がする。
1階 中庭 : 五角形の中庭。中庭上空は、すべての階で吹き抜けになっている。
※これ以外の場所も調査できます。
アクションについて
このシナリオでは、幽霊マンション『Y』を探索して、『におい』の元を探っていただきます。
一部の部屋には幽霊がいて、襲い掛かって来たり、逆に助けになってくれたりします。
また調べ方次第で、真相を知るための物品や情報が手に入ったりします。
戦ったり交渉したり調査したりしてみてください。
探索場所:1キャラ2~3か所まで(手分けして協力し合うのが吉)
もちもの:普段から持ち歩いているようなもの1つ持ち込み可
正気度 :参加が決定したら、コメントページに【正気度】と入れて書き込みをしてください。
右上のダイスの合計値が、正気度の初期値になります。
シナリオ内で幽霊や蛇のようなものに出くわすたび、
1~4ずつ減ります(マスターが四面ダイスを振ります)
正気度が0になると、その探索場所の探索を続行できなくなります。
キャラクターは失神したり発狂したり、
ろっこん・能力が暴走したりします。
幽霊の場合は意図せぬポルターガイストを起こしてしまったりします。
(味方に助けてもらうなどして探索中の場所を出ると初期値まで回復します)
万が一、NPCも含めて全員の正気度が0になってしまった場合、
このシナリオは失敗となります。
バトルになった場合の判定について
幽霊VS実体のある者(ひと、もれいび、ほしびと、幽霊以外のあやかし):
幽霊からの攻撃は、肉体を傷つけないが、精神にダメージを与える。
人間からの攻撃は、幽霊に物理ダメージを与えられない。(ろっこんなどあればこの限りではない)
存在としては実体がある方が強固なので、強い意思が幽霊に影響を与えることもある。
幽霊VS幽霊:
基本的にはすり抜け合うが、意図すれば短時間のみ干渉しあえる。
※蛇のようなものは実体があります。
登場NPC
餅々 きなこ : 幽霊。PCたちの味方で、依頼主。
忘れてしまった自分の過去を知りたい。
悪いことが起こりそうなら止めたい。
笹川 帆太 : ひと。幽霊マンションで配信中に霊界に来てしまった。
現状は夢だと思っている。あまり戦力にはならない。びっくりすると失神しがち。
海原 茂 : もれいび。帆太に付き合っていたら霊界に来てしまった。
冷静沈着。むやみに戦おうとはしないが、いざとなったらろっこんの雷で反撃。
それではご参加お待ちしております!