せんせいといっしょ：教頭先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：教頭先生編

　アフタヌーンティのお誘い

「ちょっといいかな？」
　不意に声をかけられて、後木真央は振り返った。
　そこにあったのは、整ってはいるものの色々と薄い感じがする、人の良さそうな顔。
　寝子島高校の生徒であっても、あれ誰だっけと首を傾げる者は少なくないけれど、真央は自信たっぷりに彼の名前を口にする。
「もう覚えたのだ俊介ちゃんセンセーなのだ！」

　実は以前、真央は黒崎俊介を前に、『教頭センセイなんてどこにもいないのだ』とやらかしてしまったことがあった。黒崎先生の影が薄かったから、というよりは、真央の持つ教頭先生像とあまりにもかけ離れていたから、という理由のほうが大きい。
　教頭先生といえばバーコードで退職一歩手前で校長先生直前のチョビヒゲ先生。
　そう思っていた真央は黒崎をガン見して教頭のイメージを見いだそうとしたけれど、１つも当てはまらない。
「違うのだ悪気はなかったのだごめんなのだ～～！」
　慌てて謝った真央に、次のときは覚えていてくれると嬉しいなと黒崎先生は笑ってくれた――。

「覚えてくれて嬉しいよ。で、今日はちょっとお願いがあるんだけどいいかな？」
　学校や日常のことを聞かせてほしいと頼まれて、これは前の失敗を取り戻すチャンスかと、真央は二つ返事で引き受けた。

「ん？　教頭先生が直々に、あたしに何の用だい？」
　次に黒崎教頭に声をかけられた桜崎巴は、内心身構えた。
　巴がよく授業をサボっていることはバレているだろうし、くるぶしまでのスカートは時代錯誤なほどに長いしで、何か注意でも受けるのではないかと警戒したのだ。

　が、黒崎教頭は切り出したのは全然違うことだったから、
「ああ、そういう話だったのかい」
　と巴は肩の力を抜く。

「話をするって言うけど、あたしからも質問していいんだろ？　ならこの機会に少し訊かせて貰いたいこともあるし、お茶をご馳走になりに行くとするよ」
「訊かせてもらいたいことって何かな。お手柔らかに頼むよ」
　じゃあまたあとで、と教頭先生は再びすれ違う生徒の数を数え始めた。

　バイト先へと向かおうとした御剣刀は、前方によく知った２人を見付け、足早に追いついた。
「あ、刀くん」
　にゃーくんを肩にのせた桜庭円が振り返る。
「これから能美子ちゃんとお茶しに行くところなんだよ」
　ねー、と円は弘明寺能美子に同意を求めた。

「そうか。俺もこれからバイトだから、良かったら一緒に行こう」
　まだバイトの時間までには余裕があるが、せっかくなら一緒にと刀が言うと、円がやったーと飛び上がる。

「能美子ちゃん、お茶代は刀くんがバイト代から払ってくれるってー！」
「いや俺は何も……」
「ありがとう。ごちそうになるわ」
　刀の抵抗を封じるように、能美子がさらりと答える。

「さあ善は急げだよー」
　円に促され、何が善なんだろうと思いつつも、刀が２人と並んで歩き出したとき。
「80、っと。君たち、急いでるかい？」
　数を数えながらやってきた黒崎教頭に呼び止められ、３人は教頭室でのアフタヌーンティへと誘われたのだった。

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