【大乱闘！　死闘！　死闘！　死闘！】

　キオネはおもむろに右手に大鎌を握り、自身の左腕を魔法で氷漬けにしてみせた。
「ハンデをあげましょう」
　ピュア★マウンテンに対して挑発的な態度を取るキオネ。
「……貴女は近接パワー型の魔法少女。対して私は……、ミドルレンジを得意とする魔法少女です。このままワンサイドゲームでは面白くありませんし、私はこれより右腕のみで貴女を凍てつかせてあげます」
「随分と舐められてるね、私……」
　ピュア★マウンテンの表情は険しい。事実、キオネの言っていることは正しく、ハンデがあっても攻撃が届くかどうかは五分もないと感じていた。
「でも、ここで下がったら乙女が廃る！」
　黄金の手甲に魔力を充填し、ファイティングポーズを取るピュア★マウンテン。
「肉体言語で分からせるまでだよ！」
　ピュア★マウンテンは裂帛の気合と共に大地を蹴り、腰を落として拳を前に突き出した！
「単調……ですね」
　キオネはそれを鎌の峯で打ち払うと、一連の動作で氷の矢の雨を鎌から斉射！
「そっちこそ、手の内は既に見えてるよ！」
　必要最小限の動作で氷の矢を蹴り飛ばし、更に前進するピュア★マウンテン！
「魔法少女は希望の存在なんだよ！　闇に染まっちゃだめ！」
「パンドラの匣の底に残ったのは希望ではなく、同じ過ちを繰り返す無謀さだという話を知らないのですか？　……光は全て、いずれ闇に飲まれるのです！」
　ピュア★マウンテンのアグレッシヴな説得も、キオネの前では全く意を成さない。
　その後も拳と氷の矢の応酬が繰り広げられるが、両者決め手に欠ける戦いが続く。
「こうなったら……！」
　痺れを切らしたピュア★マウンテンの手甲が一際輝きを増す！
「輝け、私の右手よ！」
　ピュア★マウンテンがイチゴ味のキャンディを口に含むと、熱いハートに溢れる乙女心が全身に力を与え、ろっこん『一粒入魂！』の効果が組合わさる！
「必殺技は叫ぶのがお約束だよ！」
　瞬間的に増強された身体能力で飛び出せば、迫り来る氷の矢を弾き返していく！
　それもその筈、燃える乙女心を魔力へ変換している彼女の身体に、嵐のような乱気流が発生しているのだ！
　氷の矢はピュア★マウンテンの肌に接する前に気流で弾き飛ばされてしまっていた！
「こ、来ないで！」
　キオネは大鎌の刃先を地面に刺して狼狽える。
　だが、この好機をピュア★マウンテンは逃さない！
「これが私の最強の一撃――！！」


「究極ゥーッ！！　アコンカグア・ストリィィィィムッ！！！　」


　突き出した拳が眩く輝き、キオネの身体を捉えた！
　――かに思えた。

「私に接近戦を挑んだのは迂闊でしたね……！」
　地面に突き刺した大鎌の刃先から青白い魔法陣が生成されたかと思った次の瞬間！
　ピュア★マウンテンの視界を覆い尽すほどの凄まじい吹雪がキオネの周りを取り囲んだ！
　キオネがしてやったりとほくそ笑む。
「手の内が見えている？　愚かですね！　切り札は常に隠しておくものです……！」
「あああああ！！！」
　拳が、体中が、絶対零度の雪嵐によって氷漬けにされていく！
　このままでは攻撃は届かない上に凍死してしまう！
「これが私の切り札！　エンド・オブ・ブリザード！！」
　吹雪の範囲は徐々に拡大し、かたなやストライクチェリー、ジャナたちにまで迫ろうとしている！
「光の魔法少女なんて、私１人で充分でしたね……。あとは魔法少女の氷像を魔王様へ届ければ――」
「そうはさせないのだ！　フレイムファイアー！！」
　そこへ後木が口から火を吐きながらキオネに立ち向かう！
「月乃ちゃん頑張るのだ！　真央ちゃんも頑張るのだ！」
　猫鳴館の仲間を助けるべく、魔力をフルパワーにして吹雪を溶かす後木！
　赤褌と赤いサラシ姿の彼女は余りにも斬新な魔法少女姿である。
「にゃにゃにゃがおー！　お猫様パワー充填なのだー！」
　後木はろっこんでずんぐり三毛猫がおーさんを呼び出し、猫パワーを補給！
　すると何故かいきなり火力が数倍に跳ね上がったではないか！
「こ、こんなの滅茶苦茶です……！」
「滅茶苦茶じゃないのだ、お猫様は素敵なのだ！」
　キオネの吹雪は凍てついたピュア★マウンテンと共に溶かされ、魔力が切れたキオネは吹雪を維持できなくなってしまった。
　今度こそ光の魔法少女の必殺技がキオネに突き刺さる！
「究極ゥーッ！！　アコンカグア・ストリィィィィムッ！！！　」
「焼き加減、レアにしておくのだ♪」
　ピュア★マウンテンの拳が、後木の炎が、キオネのエナジーバッジを遂に打ち砕いた！
「えっ？　そ、そんな……？」
　打倒されたキオネは信じられないと言わんばかりの顔をしていた。
「ふふっ――。まさか、ここまで出来るなんて……。慢心したのかしら……？　こんなことなら、両腕を使うべき、でし、た……」
　衝撃波で服は恥部以外が吹き飛び、髪は炎でアフロになったキオネ――北条 冬華は満足気にその姿を消失させていった。

　北条 冬華→脱落！


　場所は変わってキリュキュア＆クー vs ドＳ姫＆ノワール。
　クーは魔力を籠めたブーツの機動力と新体操の動体視力・反射神経・柔軟性・空間把握能力・脚力・バランス感覚の応用で空中を駆け巡り、２人を霍乱。
　時折ろっこん『浮かぶ瀬は瞬刻にして』の閃きでうまく注意を惹きつける事に成功している。
　キリュキュアもコンビネーションで闇側に対抗していた。
「「キリュキュア！　エクストリーム千本ノック！」」
　ニュクスがろっこんで生成・凝縮したバリアを、ろっこんでパワーが上がったスノウが釘バットで打ち出す！
　１つ１つが戦車の榴弾の如き破壊力を秘めたバリアの塊が闇側を追い詰めていく！
「飛び道具なんてずるいわね！」
　ドＳ姫が舌打ちするが、そこへクーの急降下踵落としが飛んでくる！
「必殺！　レーゲンヴァッサー☆ファル！」
「ひゃん！？」
　紙一重で躱すドＳ姫。だが、踵落としは民家の屋根の瓦を跳ね上げ、見事にそれが彼女の顔面にクリーンヒット！
「く、屈辱だわ……！！　これで羞恥に震えなさい！」
　ドＳ姫は鞭を振り回し、そこから分泌される白濁の消化液をクーに振り掛ける！
「むぅ……！　痛くも痒くもないが、服がはだけてしまうのは問題だな！」
　ちょうど胸元に消化液がかかり、クーの結構豊かな乳房の谷間が露わになってしまう。
　それでもクーはめげずに、赤面しながら一撃離脱を繰り返していく。
「もう何やってるの！？　こんな雑魚、ぽぽーいとやっつけちゃいましょ？」
　ノワールは仰々しくスカートの裾を翻し、光の魔法少女達へお辞儀した。
「辞世の句は詠んだ？　この世に思い残すことはない？　防御魔法の詠唱準備はＯＫ？」
　ノワールが異形の大剣に魔力を注ぐと、それを空高々と放り投げた！
「私の愛、あなたたちに見せてあげる！」
　すると異形の剣が空中で弾け飛び、その部品の１つ１つが黒い剣となって光の魔法少女たちの頭上へ降り注ぐ！

「ハリネズミになっちゃえ！！　『Endless rain of JUDGEMENT（降り止まぬ裁きの雨）』！」

　半径100ｍの民家が、樹木が、黒い剣で突き抜かれ、轟音を立てながら崩壊していく！
　敵味方お構いなしのまさに『無償の愛』は、継続戦闘をしていた他のグループをも巻き込んで甚大な被害を与えていった。
　キリュキュアもニュクスのシールドでかろうじて凌いでいるが、上下左右から突き刺さる剣の雨に指す術なく魔力を消耗させられていく。
「渚砂！　俺が行く！　辺りは破壊音で満ち溢れているだろ！？　俺のろっこんもフルで発揮できるはずだ！」
　スノウは有無を言わずに剣の雨の中へ飛び出そうとした。
　それをニュクスが肩を抱き寄せて静止した。
「何すん……」
「深雪、自分を大事にしないとお姉さんは怒るぞ」
　その目は、本当に怒気を孕んでいた。
「ピンチになっても、怖くて涙が出ても！　信念だけは折らない、絶対に深雪を守る！　だって、魔法少女は夢と希望を叶えるものなんだぞ！　でも、自分を無碍にして守ったって、残された人は凄く悲しいんだからな？」
「じゃあどうすりゃいいんだよ！」
　苛立つスノウ。今にも飛び出しそうな気構えだ。
　しかし、ニュクスもこの状況を打破できる策を思い浮かぶことができない。
　空中を飛ぶクーは回避に専念するしかできず、他の仲間も剣の雨でダメージを受けている。
　最早これまでかと思った、――その時だった。