【魔法少女は乱入上等！？】

　魔法少女世界上空。
　ようやく飛行のコントロールのコツが掴めた雪代 伊織は、のんびりと下界の様子を眺めていた。
「な、なるほどなのですね……。悪い魔女と正義の味方が戦っているのでございますね！」
　オズの魔法使いみたい、と目を輝かせる雪代は、相変わらずここを夢の中だと錯覚していた。
「となると、私も変身して悪い魔女を倒さねばなりませんね……。でも変身の呪文と言われましても、生憎日本文化には疎いですし……」
　うーんと空中で腕を組んで考えること十数分。
「とりあえず、これを試してみましょう」

「ちちんぷ～いぷいっ♪」

　ボワッと体中が煙を上げたかと思えば、雪代の衣装は背中にアニメ調の天使の翼を生やしたゴシックな黒いドレスの魔法少女になっていた。
「本当に変身出来ました！　さすが夢の中でございますね！　……って、これは？」
　右手には、ずっしりと重くて分厚い本が。
「なんと！　これは大正漢和大辞典でございますわね。縦25.5センチ×横15.5センチ、総頁数1965頁、重さは3.2kgの超重量級で、え、これが武器？」
　ポカーンとしていると、雪代の身体は辞書の重さに耐えられずに地上へ落下するのであった……！

「ラッキー！　あっちの茶髪のお姉さんは薄いピンクのパンツ！　そっちの灰髪のお姉さんは純白のレースパンツ！　なんてエロいんだ！」
　横嶋 下心は交戦中のキリュキュアを魔法の桃色アイで透視（盗視）していた。
「うおー！！　辛抱たまらない！　下半身が最新型新幹線Ｅ７系みたいにかっ飛んじゃうよ！　いってきまーす！」
　桃色の魂を燃やし、なんと果敢にも戦闘に乱入していった！
「お姉さん！　俺の名前は横嶋 下心！　桃色破廉恥小隊の隊長さ！」
　爽やか笑顔でサムズアップ！　紳士アピールを欠かさない！
　突然の闖入者に両陣営は何事かと目を向いて驚く！
「美少女同士で殺し合うなんて良くないよ！　ここはひとつ！　お尻に太もも、おっぱいおっぱい！　見せて揉ませて触らせて！　すごくエロい事させて下さい！」
「「へ、変態だー！」」
　横嶋のド直球な欲望に、思わず光・闇とも攻撃の手が止まってしまう。
　これ幸いと、横嶋は脚力に魔力を籠めて、スタイル抜群のクーに飛び込んだ！
「俺はおっぱいが大好きだー！」
　クーはエロの脅威に晒され混乱している！！
　そこへ……。

　＼いっおり～ん／

　謎の効果音と共に遥か上空から大正漢和大辞典が横嶋の後頭部へ直撃！！！
　一緒に降ってきた本の所有者と思しき少女は、横嶋に減り込んだ辞書を両手で高々と掲げると、そのまま何度も殴打を開始！

「えいっ！（いおりん♪）　えいっ！（いおりん♪）　えいっ！（いおりん♪）　えいっ！（いおりん♪）」
　よく分からない効果音付きだが、確実に空から降ってきた少女、雪代の顔に返り血がべっとり付着していく。
　数発殴って、横嶋が動かなくなったのを確認すると、満足気な顔して雪代ははにかんだ。
「悪の戦闘員さんをやっつけました！　私、頑張りました！」
　うん、まぁ、ＰＥＣ隊員服って悪の秘密結社っぽいイメージだしね、仕方がないね。
　そして血塗れの辞書を抱えて、彼女はヨタヨタと天へ登っていくのであった。
「……実在したのか、撲殺天使……！！」
　クーがツッコミを入れた５秒後、何事もなかったかのように再び殺し合いが始まる。

「あ、あれは戌井君……！！」
　ようやく想い人の姿を見付け、添木 牡丹ことナース牡丹はマジカル★バンダージェを発動！
　ウルフの足元に魔法の包帯を巻き付け拘束を図る！
「あ、ぼたんせんぱ～い！　やっと会えたね！　……でも、邪魔しないでくれないかな？　ルシフェル様に逆らうなら、先輩でも許さない……！！」
　影の黒狼が魔法の包帯を食い千切ってしまい、ナース牡丹の目論見は破れてしまう。
「戌井君、戌井君……、いや、創君！　お願い、目を覚まして！！」
　悲痛なナース牡丹の訴えは、ウルフの足元から生み出される黒狼たちの吠え声でかき消されてしまう。
「せんぱい、ウザい……」
　ウルフは指示を与えると、黒狼たちは一斉にナース牡丹達を襲撃しだした！
「体制側に使われる奴らを犬って呼ぶけど、本物の犬を相手取るとは思わなかったさね！」
　ゲバ棒をぶん回して応戦するのは桜崎 巴こと魔法少女ラジカル☆ともりんだ。
　体制派殺しを具現化したゲバ棒は、まさに命令通りに動く犬どもを次々に木っ端微塵にするおあつらえの魔装具といえよう。
「よーし！　私も頑張っちゃおう！」
　雪原 真白ことホワイトスノウが念じると、白金に輝く細身の剣、レイピアを召喚させる。
「数が多いから、いきなり本気を出しちゃうよ！」
　目にも止まらぬ剣捌きにて真空の刃を生成、魔力とともに周囲へ解き放つ！
「白刃一閃☆ミ かまいたち！」
　キラッ☆と星が煌くようにレイピアの剣先を輝かせながら、迫り来る黒狼を切った貼ったと薙ぎ倒す！
「さぁ、牡丹先輩、早く彼のもとへ！」
「ありがとうございます、真白ちゃん……！」
　ナース牡丹は黒狼の攻撃をマジカル★メスでスパスパと捌きながらウルフの前に躍り出た。
「お願い！　正気に戻って、創君！　いつもの優しい創君に戻って！」
　泣きながら訴える恋人の声は、黒衣のメイドとなったウルフには届かない。
「何で、何で邪魔をするの……？　先輩なんて、先輩なんて……」

　しんじゃえばいいんだ……！

　十数匹の黒狼がナース牡丹の身体に覆い被さり、その歯牙を突き立てた！
　気味の悪い咀嚼音が辺りに響き、もはやモザイク処理が必要じゃねーかと思われた矢先の出来事だった。

――The thing put under the control of me, I'm a creator, and I give it an order！ I manifest it, and I help it！
（我が支配下に置かれしモノよ、創造者が命ず！　顕現し我が力となれ！）
　――I pile on top in droves and do it, and "reality", my person of imagination gives it an order！ I receive my will, and change the figure！
（十重二十重に折り重なりし“現実”よ、想像者が命ず！我が意志を受けその姿を変えよ！）

　――Imaginecreator!!
（ろっこん『幻惑共有』!!）

　ルシ様の高度且つ超光速二重詠唱魔法＋ろっこんが発動！
　気が付けば、ナース牡丹はルシ様の腕の中に抱きかかえられていた。
「何が起きたの……！？」
　ウルフは黒狼の食事場所を見て目を疑った。
　そこには、ナース牡丹の死体ではなく、写真の山が出来ていた。
　ウルフはその一葉を手に取って愕然とした。
　写真には体操服＋ブルマ姿のウルフの姿が写っていたのだ！
「こ、これはどういう事！？　こんなの、ルシフェル様に撮影されたことない！！」
　……他の写真はあるのか、という考えがナース牡丹の心を黒く染めていく。
　ルシ様はドヤ顔で言った。
「貴様の犬が喰らったのは残像だ。そしてついでに捏造写真を現像して、転移魔法ですり替えたのだ、フフフ……」
「ダジャレかよ……」
　つまり、ルシ様の必殺技はろっこんで創造したものを実体化させる魔法！
　写真の束をナース牡丹とすり替え、彼女を無傷で生還させてみせたのだ！
「さて、貴様よ。あのメイドを生け捕りにしたいのか？　手を貸してやらんこともないが？」
　ルシ様、若干ツンデレ気味。今は性別も女性化しているので余計にツンデレ度がアップしている。
　もとより利用できる者は何でも利用するつもりだったナース牡丹はこれを快諾した。
「ええ、お願いしますぅ。動きを５秒止めてください～！」
「よろしい、ではいざゆかん！」
　ルシ様はレインボー☆とりもち（七色のとりもち。金平糖配合で見た目可愛い）を具現化させて、それを綺麗なフォームでウルフに投げ付けだした！
　べちゃっと音を立ててウルフに直撃すれば、べったべたの粘着力で動きが鈍り出す。
「う、うぅ！　動き、づらい……！」
　抵抗するウルフは黒狼を懸命に呼び出すが、本気を出したルシ様の腹パンがウルフに突き刺さると、狼たちは一気に消失してしまう。
「我は望む未来を掴む為に選択した。故に責は甘んじて受ける」
　七色のとりもちでウルフを拘束することに成功！
「創君、ごめんね……！」
　ナース牡丹の渾身のマジカル★手刀がウルフの頚椎を強打！
　すると、まるで憑き物が落ちたかのようにウルフ、いや戌井の顔が明るさを取り戻した。
「ぼたん先輩……、ごめんなさい……」
　彼は眠るように気絶していった。
　そんな戌井をナース牡丹は優しく抱き留める。
「創君が居るなら……、もう何も怖くない……！」
　かくして、ウルフは浄化され、戌井 創は光の魔法少女（♂）として転生を果たした！

　戌井 創→添木 牡丹の愛（手刀）で浄化！