希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

　シーサイドタウン駅に巨大なトレーラーが横付けされた。関連した車が続々と集まり、黒いスーツを着た面々は何かを守るような陣形を取った。その中にメイド服の巫部紫苑がいた。
「メイドの仕事にギャングの撃退って含まれていました？」
「もちろんデース。メイドは家事をして銃撃戦もこなし、主人に仕えマース」
　側にいた深縹露草が爽やかな笑顔で答える。
「それと銃撃戦にはコインも役に立ちマース」
「そうなのですか？」
「敵に撃たれた時、コインに当たって助かるのデース」
　露草は摘まんでいたコインを胸ポケットに収める。
　その間に会場作りは着々と進められた。トレーラーのコンテナ部分が開いてステージとなった。大型スピーカーが積み上げられ、照明の動作チェックが行われた。
　剣崎エレナはディレクターズチェアに座って眺めている。時に付き人の一人に指示して舞台の構成を変えた。
　舞台が整い、打ち上げられた花火に合わせて凱旋コンサートが華やかに始まった。中央のマイクスタンドに向かってエレナは叫んだ。
「世界のアイドルとなった私の圧倒的なパフォーマンスを食らいやがれぇぇ！」
　熱狂する観客の声に応えるように攻撃的なギターが迎え撃つ。ベースの速弾きに歓声が大きくなる。腹の底に響くドラムが更に場を盛り上げ、電子ピアノが軽やかに音を運ぶ。全ての音が重なってエレナを盛り上げる。
「一曲目は世界に打って出た『The door to the new world』よ！」
　辺りは熱狂の渦に巻き込まれた。その時を待っていたかのようにエレナを執拗に付け狙うギャング団の総攻撃が始まった。
　露草は先陣を切って立ち向かう。
「そうはさせないのデース！　私はニンジャの末裔！　分身の術はお手の物なのデース！」
　走る露草の輪郭がぶれて七人に分かれた。個々が武器を手にして対抗した。
「血が滾ってきました♪　私も必殺メイドさんとして動きましょう」
　紫苑は音を立てないようにして両手を合わせた。ろっこん『死音』が発動。無音の疾走を披露した。
　音のない移動で易々と敵の背後に回る。紫苑はスカートに両手を入れた。取り出すと指の間に果物ナイフが計八本、両腕を無造作に振ると敵の背中に刺さり、苦鳴の声を上げて倒れていった。
「命までは取りませんよ」
　にこやかに笑うと次の敵に向かう。
　観客はステージのパフォーマンスに熱狂した。敵は襲撃の手を緩めない。迎える黒スーツが排除に励む。そこに高瀬誠也が加わった。
「アイドルを傷つける者は許しません」
　二丁の拳銃を取り出し、敵の肩や太腿を狙い撃ちして無力化に大いに貢献した。
　楡宮遠海にも戦いの要請がきた。
「はい？　なんですって？」
　片方の耳を掌で押えて他方の耳に嵌めた小型スピーカーの声に集中する。最前線ではなく、エレナの背後でショルダーキーボード奏者として演奏に興じている。遠くの銃撃戦を見て遂に不満は爆発した。
　怒気を孕んだ顔でステージから飛び降りた。その勢いで敵に突っ込み、キーボードの先端を向けた。銃口が迫り出し、凄まじい連射を見せる。
「マシンガンでハチの巣になればいいのよ！」
　けたたましい笑い声を上げて敵を制圧した。
「今日はありがとう！　私はもっと大きな存在として島に戻ってくるわ！」
　観客から万雷の拍手が起こる。指笛を鳴らし、エレナの名前を連呼した。
　敵を追い出した露草は遠目で眺めた。
「お疲れ様でした、エレナ嬢」
「本当に疲れたわ」
　遠海はぺたんと地面に座り込む。近くに立っていた誠也は二丁の拳銃をウインドブレーカーのポケットに収めた。
「無事で何よりです」
「適度な運動のあとは糖分ですよね♪」
　紫苑は紙袋のたい焼きを取り出し、頭から齧り付いた。