希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

【１】ウソをついて現実にする
　旧市街の古びたアパートを朝陽が照らす。電線に横一列に並んでいたスズメが一斉に活気づく。
　その囀りはアパートの一室にも届いた。浅い眠りの中にいた落合まゆらが布団の中でもぞもぞと動き出す。
「……朝みたいね」
　薄っすらと瞼を開けて明るいカーテンを眺める。息を吐いて上体を捩じるようにして起こした。
　ぼんやりした顔で右手を軽く持ち上げた。握っていた物を見て瞬時に目が丸くなる。
「これって『魔法少女ミスティックアリア』のステッキじゃない！」
　握ったステッキに顔を近づける。本体を回すようにして見ていく。細かいデザインには目を凝らし、感心したような溜息を漏らした。
「どうして、あたしがこれを……夢で、魔法少女になっていたような……」
　戸惑う目が卓上カレンダーに行き着く。
「……今日は四月一日」
　ステッキを手の中でくるくると回す。瞬間、しっかりと握った。気分の高揚で手が微かに震えた。
　まゆらは掛け布団を撥ね退ける勢いで立ち上がった。
「エイプリルフールらしく」
　ステッキを高々と掲げた。熱意に満ちた顔でポーズを決める。
「世界に大いなる神秘の輝きを！　魔法少女ミスティックアリア！」
　眩い光が全身を包む。寝間着は一瞬で可愛らしい衣装に変わった。
「え？」
　変身した本人が驚いた。白と赤、それにピンクの配色が愛らしい。腰には象徴的な白いリボンが取り付けてあり、手で触っていると実感が込み上げてきた。
「あたし、ミスティになっちゃってるよ！」
　頭の中に過る疑問を嬉しさが吹き飛ばした。まゆらは、すごいよ、と声を上げてはしゃぐ。ふんわりしたスカートが心と同様に大いに弾んだ。
「この声は」
　冷静な声で静止した。
「子供の、泣き声が、聞こえる……道に迷っている？」
　まゆらは九夜山の方向に目をやる。
「ミスティの聴力のおかげね」
　まゆらは大股で玄関に向かい、途中で引き返してカーテンと窓を開け放つ。露になったレールに片足を乗せた。履いた靴の一部には羽が付いていた。
「あたしは魔法少女。今なら空だって飛べる！」
　飛行魔法を自身に付与した。まゆらは魔法少女として青い空へと跳躍した。
　落下することはなく、大きな弧を描いて飛んでゆく。
「あたしは本当にミスティなのね！」
　九夜山の上空にくると表情を引き締めた。空中にとどまり、山全体を見下ろす。
「……泣き声は左から聞こえるわ」
　子供の気配を探るように緩やかに移動。目にした山道に目を走らせると小さな人影を見つけた。
　頭から急速で降下。着地の間際、反転して足からふわりと舞い降りた。
「もう大丈夫よ」
　目の前の子供は泣き止んだ。びっくりした顔のまま、少し遅れて言った。
「お姉ちゃん、空を飛んできた？」
「そうよ。魔法少女だからね」
「迷子のボクを助けてくれるの？」
「もちろんよ。あなたの両親を一緒に探してあげる」
　まゆらは笑顔で子供に飛行魔法を掛けた。すると両足が僅かに浮いた。
「ボク、飛んでる！？」
「空から一緒に探した方が早くに見つかるよ」
「で、でも、ちょっと怖いかも……」
「それなら手を繋いで空中を散歩しようよ」
　まゆらは子供の手を握ると緩やかに浮上を開始した。握る手が強くなった瞬間、上昇を止めた。
　横目で子供の様子を窺う。強張った顔が時間と共に解れて笑みへと変わる。
「……こんなの初めてだよ。空って気持ちがいいんだね」
「気分が良くなったところで両親を探しに行くよ」
「あまり急がなくても。その、ゆっくりで」
「そうね。空中散歩を楽しみながら」
　二人は手を繋いで大きな空を自由に飛び回った。

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