希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

　葉利沢倫理子は殺風景な部屋で目覚めた。
「どこ？」
　怯えた目でベッドから降りて、ああ、と諦めにも似た声を漏らした。
　別人格のMaliceに身体を乗っ取られていた時の事情は学校の屋上で朝鳥さゆるに直に聞いた。同性で情事の相手でもあった。
　その主な現場となった部屋に倫理子はいた。相手はいなかったが、スカートの中に手を伸ばす。びくっとして急いで引き抜く。
　指先が透明な液体で濡れていた。
「わ、私が、そんなことをするはずがないわ！」
　握り締めた拳でベッドを殴り付けた。何度も振り下ろして、もう嫌！　と叫び続けた。
　息が上がった。片方の手で髪を掻き毟る。苛立ちから掴んだものの、引き抜くような真似はしなかった。
　酷く沈んだ目で呟いた。
「……どうして、私だけが、傷つかないといけないのよ……」
　項垂れた姿で時間を過ごす。
「復讐してやる」
　酷く冷たい声を吐き出す。
「この世界に、私が受けた苦しみを返す。私は今日、独裁者になるわ」
　怒りの目でけたたましい笑い声を上げた。床に落ちていたショーツを蹴り飛ばす。スカートはパンツに履き替えた。
　玄関に置いてあったブーツに足を捻じ込み、乱暴にドアを開けて出ていった。

　青い海に面した歩道を親子連れが歩いていた。恋人は手を繋ぎ、美しい風景を背景に会話を楽しむ。
　目にした倫理子は鼻筋に皺を寄せた。車道には多くの車が走り、余計に気分を苛立たせた。
「今日から島の車道は全て歩行者天国よ！」
　高らかに宣言した途端、人々は車道を歩き始めた。走行中の車は全て停まり、ドライバーは呆然となった。
「面白いわ！　全てが叶う！　なんて日なのよ！」
　目を輝かせた状態で歯を剥いた。狂気を含んだ笑い声で倫理子は車道の真ん中を歩いた。
　すると軽薄そうな身なりの青年が声を掛けてきた。
「そこの美人の彼女。ヒマなら俺と遊ぼうよ」
「あなたでは私を満足させることが出来ないよね。そこにいた男性が、あなたのアソコは小指程度と言って嗤っていたわよ」
　倫理子は強面の男性を指差して言った。
「マジか！　おい、そこのおっさん。ちょっと待て！」
　あからさまな嘘で二人は殴り合いの喧嘩となった。
「バカみたい」
　ほくそ笑んだ倫理子は左右の車を眺めながら先へと進む。
　人相の悪い連中が目立つ。倫理子の全身を見て、一発やりてー、と聞こえるように言った。
「男同士で一発やればいいわ」
　その一言は絶大でズボンの脱がし合いが始まった。
「醜いサルが」
　吐き捨てると右手の奥に大観覧車が見えてきた。営業中らしく、ゆっくりと回っている。ゴンドラに乗り込む人々を想像したのか。急に目が鋭くなった。
「そこのあなた。今すぐ、あの観覧車を破壊するのよ」
「え、僕が、ですか？」
　弱々しい声で少年が聞き返した。
「そうよ。そこのあなたも手伝って」
「でも、どうやって？」
「ゴンドラに石を投げたり、操作盤を壊したり、なんでも好きにすればいいじゃない」
「わ、わかりました」
　最初の少年が小走りで向かう。その後も何人か続いた。結末は見ないで左手に曲がる。
「まだよ。全然、足りないわ。こんな程度で私の復讐は終わらない」
　目に入る全てを睨み、尽きない恨みを抱く。
　倫理子の心は悪意に染まる。その姿は別人格、Maliceと酷似していた。